最近の感想


夕木春央 - 楽園
     


~あらすじ~
両親の急逝により多数の物件を受け継いだ康之。
居住者の海原が失踪し、手掛かりを求め恋人の沙織とともに向かった先には閉鎖された集落が。
そこから出るには、誰かを殺さなければならなかった。


~感想~
あまりに特異なシリーズの3作目とあり、もうネタバレなしでは何も言えないができるだけがんばって避けると、趣向は買うものの3作はさすがに多すぎた。
ミステリ馬鹿なら思い当たるだろう、同様の趣向を凝らした先行作品は1作限りであり、しかも長編の形式ではなかった。個人的にはあれがベストの形態であり、やって2作目までに留めておくべきだったと思う。
というのも3作目ともなると何が起きても全編にわたって「知ってた」になってしまい、予定調和感が半端ない。初読なのに二周目と同じ感覚で読めるのはなかなか新しい経験だが、それで予定調和感と既視感が消えるわけではない。
シリーズをまとめ上げる結末は良いが、まとめるために「殺さなければ出られない」あまりに強引すぎる思わず笑ってしまったありえねえ設定と、急に無から生えてきた動機を作らざるを得なかったのもネック。あとあの人はサイコパスだから気づいてないけど普通にこの後あの人に殺されると思うよ?

先行作品のスマートさとあまりに完璧な舞台設定、オーバーテクノロジーのような図抜けた発想がちらついてしまい、先行作品を読んでいないほうが楽しめただろう。
しかし先行作品のことは置いておくとしても、ここ数年でも屈指の傑作だった1作目「方舟」がシリーズの一つとして取り込まれてしまったことが、「方舟」にとってなんらプラスに働いていないのがなんとも惜しい。
あの1作だけで完璧だった「方舟」の価値を落としたとまでは言わないが、傑作に必要のない続編を付けてしまった感はどうしても否めない。「聖闘士星矢」とか「魁!!男塾」と同類。
先行作品と「方舟」がすごすぎた。それだけが不幸だった。


26.8.18
評価:★★★ 6



北山猛邦 - 『石球城』殺人事件
     


~あらすじ~
世界は滅亡し、海を求め旅に出たルーサは仲間割れの末に倒れ、目覚めると石球城の中にいた。
そこは13人の巫女と13の灯台によって光をもたらされた暗闇の世界。
存在しないはずの外の世界から来たルーサに、世界の果てを求めるロメリアは希望を見出すが、巫女が次々と殺されていく13の密室の謎が立ちはだかる。


~感想~
作者がデビュー当初に書いていた城シリーズにまさかの続編。
あの頃とは比べ物にならないほど腕を上げた作者が13の密室と世界の謎に正面から挑んだと聞き、相当にハードルを上げて読んだが悠々とそのはるか上を飛び越していった。
13の密室は全てガチンコ勝負。読む前には特殊設定ミステリならではのある一つの隠された法則を軸として密室を作ったのかと思っていたが、蓋を開ければ今や「物理の北山」の二つ名で知られる作者が多種多彩の物理トリックで全く違う方法で密室を作りまくる。
見取り図や絵をふんだんに配してくれたため理科オンチにもわかりづらさは全く無く、小細工から大仕掛けまで取り揃えた密室の数々には驚き呆れるばかり。
もう清涼院流水「カーニバル」のネタバレをしてしまうと、「カーニバル」のただ「そういうトリックだった」で説明されない物理トリックに全て説明を付けてしまったような按配である。いやマジで北山猛邦なら「カーニバル」のトリックにちゃんと説明付けられるんじゃないかな…。
この13の密室だけでもすごすぎるのにそれだけでは終わらず、特殊設定ミステリとしての大仕掛け(なんとそれも1つや2つではない!)が世界滅亡の謎とともに明かされるやりすぎぶりで、本ミス1位と本格ミステリ大賞はもう無投票で与えてしまっていいんじゃないだろうか。
そして何かを持ち上げる際に他作品を引き合いに出して貶めるのは下品だがでもどうしても言いたい。
密 室 キ ン グ ダ ム と は な ん だ っ た の か。
本当の「密室キングダム」は本作である。


26.8.6
評価:★★★★★ 10



東野圭吾 - 希望の糸
   


~あらすじ~
喫茶店主の女性が殺害され、加賀恭一郎と従弟の松宮は捜査するが、誰もが被害者を善人だと証言する。
一方、金沢では死に瀕した男の遺言書に意外な名前が記されていた。
彼女と彼の見た希望とはなんだったのか。

2019年文春9位

~感想~
シリーズキャラで加賀の従弟の松宮脩平が実質的に主人公を務め、松宮の過去も明かされる。
誰からも憎まれることのない被害者を誰が殺したのか、被害者と店の常連という接点しかないはずの男の親子関係がどう関わるのか、さすがの筆の冴えで楽しく読んでいたが中盤に一気にリアリティが死ぬ。
そういうこともあるだろうがそこから殺人事件に発展してはもうリアリティが一切ない。そういう飛躍も好きだが本作ではちょっと一線を越えてしまった感がある。
殺人の動機とその契機もかなり強引で無理やり感があり、国民的作家の手腕で上手くまとめ上げはしたものの釈然としない思いが残ってしまった。


26.7.28
評価:★★☆ 5



紺野天龍 - 神薙虚無最後の事件
名探偵倶楽部の初陣
   


~あらすじ~
才色兼備の大学生名探偵・金剛寺煌の率いる名探偵倶楽部。
その一員の白兎と志希は、路上で倒れた女性を保護し、彼女の父が記した小説「神薙虚無最後の事件」の明かされなかった真相に挑むことになる。

2022年本ミス9位

~感想~
かなり厨二が入っているのに完全無欠に事実とされる、大学生名探偵チームと世界的怪盗の最後の対決が描かれた小説「神薙虚無最後の事件」の作中で解かれなかった謎を、毒入りチョコレート的に推理合戦を繰り広げて真相を暴く。何千冊ミステリを読んでいてもこういうの大好き。
小説は要所だけのダイジェストで作中作として収録されるが、もちろん伏線はその中でだけ完結しており、重要な手掛かりが後出しされることはない。
ストレートすぎる天才美女名探偵、黒幕っぽい副会長ポジション、語り手の3人が披露する推理もそれぞれ個性的かつ説得力があり、さらにその先の真相は期待通りにそれを超えてくれる。
この題材で期待されるものには全て応えてくれた一方で、謎解きには直結しないものの最後に明かされる裏事情がちょっと言い訳じみた肩透かしだったのは少し残念ながらも、評価を下げるほどではない。
無事にシリーズ化もされ、そのうちまた当たりも出してくれることだろうからその日を楽しみに待ちたい。

それにしても宣伝文句の「人が死なないミステリ」ってリアルタイムで死なないだけで最低2人の主要人物が死んでるけどマジでなんなのこれ?


26.7.21
評価:★★★☆ 7



ゆでたまご・おぎぬまX - キン肉マン 禁断の超人タッグ殺人事件
     


~あらすじ~
レトログラードズを名乗る犯行声明が届き、ミートは三度キン骨マンと組んで調査に乗り出す。
今度の犯人は超人タッグ!?


~感想~
キン肉マンと本格ミステリの融合にこの上ない形で成功してしまっているシリーズ第三弾。
このシリーズは「全ての決着をリング上でつける世界でなぜリング外で超人殺人事件が起こるのか?」に毎回納得のいく理由を付けてくれるが、今回はタイトル通りに犯人はタッグチームであり、先に言ってしまうとこれがもう最高だった。
タッグの顔ぶれの意外性もさることながら、互いの必殺技を組み合わせてあまりにも無法な形で超人殺人を実現させており、確かにその必殺技とその必殺技を合わせたらそうなるけどもwwwwwと爆笑必至。これを思いついた時点で勝利確定である。

一部のトリックが、そりゃできなくはないだろうが原作内に同様の描写が無いものだったのは少し残念で、トリックを解きようがないのはネックながら、今回はロビンマスクやテリーマン、ウォーズマンらビッグネームも顔を揃えるがいずれもミステリ世界に放り込まれたらいかにもしそうな反応を見せてくれ、完全に解釈一致しているのはさすが。
特にロビンマスクと正体モロバレのザ・ホウオウは期待に違わない活躍ぶりだった。

もちろん今回も細かいネタをつついた完全ネタバレ感想を書いたので良かったらどうぞ。
 → ネタバレ感想へ


26.7.10
評価:★★★☆ 7



餅屋蛾 - ダクダデイラ
     


~感想~
カクヨムで公開されるやあまりにも高いクオリティで話題を呼んだモキュメンタリー風ホラーの単行本版。
一部パートが過激すぎてカクヨムで公開不可となり、単行本版にのみ収録されたため久しぶりに純粋ホラーを買った。

今さらそのクオリティの高さを言うまでもないが、これまで話題を呼んだモキュメンタリー風ホラーとは一線を画すもので、完結はまだながら(※本作で第一部完とのこと)もうここまで各編が面白ければこの先オチがゴミでも全然許せてしまうだろうと思えるほどである。自分はホラーの考察に全然興味がないが、考察抜きでも各編を非常に楽しく読めた。

特筆すべきは異常に高いネット描写の濃さで、あまりにも湿度が高く再現度もはんぱない。本作と「都市伝説解体センター」とオモコロの「悪魔情報シリーズ」はネット描写のリアルさのケタが違う。
一方で完全にふざけているとしか思えない部分(※章題にもなっているAVとか)があるのも大好きで、個人的には本作を「怖い悪魔情報」と勝手に呼んでいる。

刊行にあたって各編の順序が少し変わったが、カクヨムで公開不可となったパートが収録されただけで加筆はたぶん無いものの、そのパートがなかなかの長編であり単行本を買う価値も十分。明らかにネット版のほうが読みやすいものの装幀もがんばっている。
たしかに他編よりもかなり暴力的かつグロい描写が満載で、収拾をつけるために全部知ってるポジションの人物が登場したのはちょっとありきたりで残念ながら、そうでもしなければ収拾がつかないのも確かであり、1冊を締めくくるまとめとしては及第点で、全体の評価を下げるほどではない。
現時点でもホラー小説史に残りうる傑作であり、しかもまだ第一部が完結しただけで連載が予告されており、今後も楽しみでしかたない。

なお内容は10点だが明らかに読みやすく本来の形式であるカクヨム版には及ばないため、この単行本版は9点とさせてもらった。


26.7.10
評価:★★★★☆ 9



白井智之 - 本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件
     


~あらすじ~
殺人計画を立てる男たち、宇宙人を監視する小学生。
本好き刑事が挑む不可解な殺人の真相は?
前代未聞のA7サイズ本格ミステリ!(※転載)


~感想~
A7版という見たことないサイズで刊行されたネタ本。
SFグロトリックの大家である作者だけにてっきり「本当に頭の中がどうなってるのか開いて確かめるんだろなぁ」と思っていたがそうしたグロ描写は一切ないので安心(がっかり?)して欲しい。
ポケットティッシュサイズの本だけにどんな遅読でも30分で読めるだろう分量しかないが内容は良質。期待通りにこのサイズで刊行された理由もきちんと付けてくれた。
良くできた短編くらいの分量しかないのに定価660円はさすがに高いが、珍本としての価値もあり興味があれば買ってみるのもよいのでは。


26.7.6
評価:★★★ 6



阿津川辰海 - デッドマンズ・チェア
     


~あらすじ~
コトダマ犯罪調査課の小鳥遊沙雪は、中国から駆け落ちしてきた能力者の少年少女に拉致される。
マフィアのボスである少女の父が送り込んだ能力者狩りのチームに追われ、一方で他のメンバーは鳥類連続狙撃事件と首が折られた死体の捜査に奔走していた。


~感想~
前作「バーニング・ダンサー」のネタバレが多数されるため必ずシリーズ順に読むべし。以下の感想もややネタバレあり。

前作ではマキマさんとしか形容のしようがないキャラが普通に登場し「会話はマキマに聞かれてる」も堂々と披露されたが、本作では「龍が如くの趙天祐」としか形容のしようがないキャラが出演。こっちは偶然だろうけどマキマさんはマキマさんだよね?
トリックはその設定で最後まで伏せたらそりゃそうだよねという代物で早めに見当がつくが、能力バトルと頭脳戦、シリーズの今後が気になる展開は十分に楽しめる。
本格ミステリの鬼・阿津川辰海による能力バトルミステリとしては前作に続き70点が妥当だが、今後の期待を込めて追いかけ続けようとは思う。


26.6.30
評価:★★★ 6



下村敦史 - ネタバレあり 双紋島の殺人
     


~あらすじ~
「島での最初の犠牲者は名探偵」「登場人物の一人は偽名」「島では四人が殺される」「共犯者がいる」など、巻頭に書かれた7つのネタバレ。嵐に閉ざされた孤島で起こる連続殺人を描いた作中作「双紋島の殺人」は、現実に起きた事件をもとにしたノンフィクションノベルだった。事件に巻き込まれたミステリー作家は、真相解明を読者に求め小説として刊行するが……。(※転載)


~感想~
面白かったのは設定だけで、やりたかったことに内容が伴わない。
冒頭から隠す気もないほどあからさまに不自然な描写が散見され、検証によるとそれにネタバレを2つ絡めるだけで真相が丸わかりになってしまうそうで、すでに楽屋落ちの空気が漂う。
結末について具体的な言葉を避けてぼやかして言うと、最大のネックは犯人がクソバカなことで、犯人がクソバカなことを前提とした罠に実際にクソバカな犯人がまんまと掛かり、翻って罠を仕掛けた側もクソバカなことが確定してしまうのには頭を抱える他ない。
傑作「同姓同名」のヒット以来、意欲的なトリックを仕掛けるようになった作者だが、いくらなんでもこれはちょっと完成度が低かったと言うよりない。

また作中人物のセリフを真に受けて「実際に連載中にはこのネタバレは無かったらしい」とする感想をちらほら見かけたが、連載誌の「ジャーロ ネタバレあり」で検索すると連載中から7つのネタバレは普通にされていたのが一目瞭然であり、そもそもこのトリックは後付けできるものではないことも一目瞭然であって、そのクソバカな感想を書いているお歴々には古のこの言葉を送ろう。
ググレカス。


26.6.18
評価:★★ 4



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