スピアージャック 〜空がくれた豆の喜〜 | |
お題 | |
準決勝は長文で勝負していただきます。 キーワード『準決勝』 『準決勝』を使って長文をつくってください。 ※二文字以上から「長文」とします。 もちろん準決勝を戦う四人以外の方も投稿してください! これ含めて後二回なんで、得点王狙う方はここで勝負に出ましょう! あんまり思いつかないと思ったら、一応適当なのを投稿しといてから、あとで真剣に考える「保険投稿法」をオススメします! | |
「おい小村、彼女が見に来てるぞ」そういう友人の声に彼女じゃないって言ってんだろ、と何度目かわからないセリフを言いながら振り返る。 白崎 綾が所在なさげにベンチの端にちょこんと座っていた。 駆け寄って行きたいところだったが練習でしごかれた身にそれは無茶な注文だったので、汗を拭きながら歩いて近づいた。 「わざわざ見に来てくれたのか?」 俺の言葉に対する返事は無かったが、それはいつものことだ。 こちらを見上げる目から肯定していることがわかった。 綾は昔(といっても俺が知ってる限りだが)から無口で、表情も乏しかった。 生来の気質で感情を表に出すことが無かったのだ。 中学の時に縁あって話しかけてからというもの、 数々の試行錯誤を重ねて感情を読み取れるようになったのだ。自分を褒めてあげたい。 「そろそろ終わると思うから、待っててくれるか?」 小さく頷いたので練習に戻る。背中に感じる視線がくすぐったかった。 結局あの後練習はしばらく続き、帰る頃にはすっかり空は黒く染まっていた。 冷静に考えれば今のように肩を並べあって同じ年頃の男女が下校していては彼氏だ彼女だと言われるのもしかたない。 しかし俺たちの間に会話はない。一日に単語数個でも彩の声を聞ければラッキーな方である。 俺はただの仲のいいご近所さんでしかない。残念なことに。 さらに今日は俺の方がへとへとなのもある。 地区大会も大詰めなのだから少し自主性に任せてくれてもよさそうなものだが、監督はさらに練習を重ねることで優勝を狙うつもりらしい。 「・・・じゅん」 とりとめのないことを考えている途中、小さく自分の名を呼ばれた気がして振り返った。 だが綾しかいなかったので気のせいだろう。綾が自分から話しだすなんて説はネッシーより説得力がない。 「準、決勝は私、見に行く」 勘違いではなかった。何の脈絡もない話し出しだが、彼女の中では色々なものが渦巻いていたことが俺にはよく分かった。 「大丈夫なのか?人混みは苦手だろう?」 ありがたさや嬉しさより不安が先に立った。 「見たい、の。準が試合をするとこ。勝つとこ。」 かすかに赤くなりながら綾が懸命に言う。 何か説明のしがたいものが自分の内側に広がるのを感じた。 今ならどんな練習にも耐えられる気がする。 「ありがとう」 そう言って自然に、いやひょっとしたら下心丸出しだったかもしれないが、立ち止まり、手を取った。 「期待してくれよ。点とりまくってやるから」 ・・・もう今日の分の言葉を使いきってしまったらしい。 でも自分の手に感じる握られる感触に、これは意地でもいいところ見せなきゃなと思いながら、手を離さずに歩きだした。 |
この作品への投票者(投票順) | |
点 | 名前 |
2点 | 空豆 |
5点 | ハサミの使い方 |
3点 | かるかん |
2点 | るららあ |
2点 | もんた |
5点 | ヴァルガリオウ |