最近の感想



宮部みゆき / この世の春
   
 


~あらすじ~
作事方を隠退した各務家を突如として訪ねた女中。失脚した重臣の息子を助けて欲しいと請われるが、ろくに面識のない各務家をなぜ頼ったのか?
怪訝に思う娘の各務多紀は大きな陰謀の渦に巻き込まれていく。

2017年文春9位

~感想~
あらすじをどこまで書いても未読の方の興を削がずにいられるか難しいところで、上記のあらすじは物語の単なるきっかけに過ぎず、ここから思いも寄らない方向へと展開し続ける。
出版社は「サイコミステリー」という時代小説らしからぬ冠をつけ、作者も「霊験お初シリーズ」はもちろん「クロス・ファイア」など心霊・SF要素を普通に用いてきたが、本作は現実とオカルトのどちらに転ぶかわからない綱渡りを続ける。
結局は●●の方へ傾き、個人的にはちょっとなんでもあり感の強すぎる真相に引いてしまったが、現代で描いたらエグすぎる題材を時代小説に落とし込んで中和させ、この時代でしかなしえない結末へと導いた手腕はさすがであり、物語としては面白かった。

ただ「小説史に類を見ない、息を呑む大仕掛け。そこまでやるか、ミヤベ魔術!」という宣伝文句に値する「小説史に類を見な」さも「息を呑む大仕掛け」も「そこまでやるか、ミヤベ魔術!」らしさもどこにも見当たらなかったことは付記しておく。
本当になんなのこのキャッチコピー?


25.10.16
評価:★★★☆ 7



小川哲 / 君のクイズ
   


~あらすじ~
1千万円の掛かったクイズ大会の決勝。同点で迎えた最終問題に対戦相手の本庄絆は1文字も聞かず正解した。
やらせか? そうでないのならなぜ彼は0文字で正解できたのか?

2022年日本推理作家協会賞、本屋大賞候補、2023年このミス7位

~感想~
アカデミー賞作品「スラムドッグ$ミリオネア」に似た構成なのはもちろんのことまず真相ががっかり。想定の範囲内かつその中でも最も面白くない真相の一つに過ぎない。
広く知られていないクイズ解答者の技術や裏側は物珍しく、そこは面白く読めたもののそれ以外がいただけない。
「スラムドッグ$ミリオネア」さながらに最終問題に至るまでの問題になぜ正解できたのか、半生を振り返りつつ紐解いていくが、その逸話が単純につまらないのだ。
通勤の往復でほとんど読めてしまったほどリーダビリティが高いというか、内容が薄いので気軽に手に取れるが、0文字正解という魅力的な謎に対するアンサーとしてはがっかりと言う他無い。

またこれは作者の責任ではないがどうしてこれがかの歴史的傑作に近い白井智之「名探偵のいけにえ」を退けて日本推理作家協会賞を射止めてしまったのだろうか?
しかも2作品同時受賞であり、「名探偵のいけにえ」が3位に甘んじたのは選考に納得がいかない。思わず選評を読んでしまったが(※選評なんて腹が立つだけなので読むべきではない)ろくに「名探偵のいけにえ」のすごさを理解すらしていない様子だった。かえすがえすもがっかりである。


25.9.12
評価:★★☆ 5



宮部みゆき / ペテロの葬列
 


~あらすじ~
取材の帰りにバスジャックに遭遇した杉村三郎。
犯人の老人は人心掌握術に長け、巧みな弁舌で自身のペースに巻き込む。
彼が人質たちに慰謝料を払うと約束したことから事態は大きく動く。

2014年このミス7位

~感想~
杉村三郎がいったい何をしたって言うんだよ!!!

いきなり結論から叫んでしまったが杉村三郎シリーズ第三弾は実に容赦ない。容赦なくえぐいシリーズだとは承知していたがまさかここまでとは。
とりあえずきれいごとばっかり口にするあいつは一発殴らせて欲しいし、いくら当事者間の問題だとしてもあいつには一言謝って欲しい。
読み終えるともはや事件などどうでも良くなってしまうが、謎めいたバスジャック犯の老人の正体に迫る丹念な調査と、そこから起こり得るだろう納得しかない事態の推移はさすが宮部みゆきである。
しかしそれらは物語のある構図と比べたら二の次だ。国民的作家の筆力で様々な男女の形を的確に丁寧に描き分けて見せた末のアレである。もう一度言おう。

杉村三郎がいったい何をしたって言うんだよ!!!

余談だがドラマ版のあらすじを見たところ杉村三郎にも若干の非があるようアレンジされてて笑った。原作はほぼ非がないもんな…。


25.9.10
評価:★★★☆ 7



宮部みゆき / 誰か
 


~あらすじ~
大会社の令嬢と結婚しグループ広報誌の編集部に務める杉村三郎。
自転車にはねられ亡くなった運転手の娘たちから、逃走した犯人を探すため父の自伝の出版を依頼される。
しかし長女は父には後ろ暗い過去があったのではと疑っていた。


~感想~
杉村三郎シリーズ第一弾。
宮部みゆき作品といえばよく「模倣犯」の容赦なさが話題に上ると思うが、このシリーズも相当えぐい。
「模倣犯」は連続猟奇殺人事件という現実から浮いた話だが、本作も人の死を扱うものの、えぐいのはそちらではなく杉村三郎の扱いの方。
杉村は妻子をこよなく愛する平凡な人柄だが、妻が社長令嬢という一点のみで容赦ない偏見と陰口にさらされる。だが彼もまた妻子への想いこそ揺るぎないもの、自分に本当に打算は無かったのか、この想いは本心からの物なのかという疑念に常に苛まれている。
その地に足の着いた描写のえぐさだけではなく、本編でもいくつもの容赦ない人間の裏側が丹念に描かれる。
杉村のやけに有能な、しかも自らを傷つけるような調査ぶりは若竹七海「葉村晶シリーズ」を思い出さずにはいられない。
しかもこのシリーズのえぐみは今後さらに増していくのであった。

あと全くの余談だが文庫版の解説は「『模倣犯』で一敗地にまみれた前畑滋子が~」と言っているが、

前畑さんは負けてない! 犯人を檻にぶち込んだ!
お前の負けだ! 前畑さんの勝ちだ!


25.8.19
評価:★★★ 6



折原一 / 沈黙者
   


~あらすじ~
スーパーで万引きした若い男は警備員に暴力を振るい逮捕された。
微罪か注意で済むはずだったが彼は名前を明かすことを頑なに拒み、重い処罰を受ける。
年の瀬に起こった2件の一家惨殺事件と関わりがあるのか?

2001年文春4位

~感想~
作者お得意の超有名事件を題材にした作品だが、タイトル「沈黙者」と関わる事件のほうもなんと実在する。
解説の佐野洋氏も「こんな微罪で懲役6年なんてあるわけがない」と誤解してしまったが、実際に起こった事件で、万引き及び暴行(※実際の事件では催涙スプレーを噴霧した)という素直に謝れば微罪で済んだだろうに、犯人は名前も素性も一切明かさず、その反省の色の見えない態度のせいで実刑を喰らったという。
ミステリ的にはこれとこれがこう繋がるという技巧はさすがだったが、正直この「沈黙者」事件が実在するという事実が最も興味深く、作品自体を上回ってしまっているし、有名事件を題材に採るのはいつものことながら未解決の猟奇事件を扱うのはいささか趣味が悪く感じられてしまった。


25.8.9
評価:★★★ 6



折原一 / 失踪者
   


~あらすじ~
連続失踪事件の被害者の遺体が見つかった物置の裏手で15年前の失踪者の白骨死体も見つかった。
15年の時を隔てた連続失踪事件は同一犯「少年A」によるものなのか?

1998年文春10位

~感想~
超有名事件を題材にした「○○者」シリーズがかの「少年A」に手を出したが、事件の様相はまるで似ていない。
イケオジライターと美人助手ペアの調査を軸に、入り組んではいるが終わってみれば納得の仕掛けが凝らされ、完成度はなかなか高いものの、こういう風に物語を運んできたならまず間違いなくこう着地するという予想にピタリとはまってしまうのが美点であり欠点。
とはいえ予想通りの所へ綺麗に収まらせる話のまとめ方は熟練の技であり、ここは素直に褒めておくべきだろう。
読んで損のない佳作である。


25.7.29
評価:★★★ 6

 


南海遊 / 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
     


~あらすじ~
母の死により3年ぶりに生家の永劫館に帰った侯爵家の跡取りヒースクリフ。
母の友人で遺言を見に来たという謎めいた魔女リリィジュディスの異能により、彼は時をさかのぼり繰り返す。
全ては最愛の妹コーデリアと魔女の終わらない死を止めるために。

2024年このミス12位、本ミス5位、本格ミステリ大賞候補

~感想~
いわゆる特殊設定ミステリで、作者初の本格ミステリながら設定を完璧に活かしきった構成が光る。
おそらく初ミステリのためか伏線やヒントはかなりあからさまなのだが、それが逆によく考えていれば自分にも解けていたかもしれないというちょうどいい塩梅になっており、仕掛けやトリックのわかりやすさと納得感も高い。
トリックもプロットもほぼ特殊設定に依存し、その緻密ながら極めて平易な真相を編み出したバランス感覚は素晴らしいものである。

一方で一つ間違えばややこしくなり過ぎたり、単純明快過ぎれば瓦解してしまう危うさもあり、本作は奇跡的なバランス感覚で成し遂げられた偶然の産物かもしれないが、それは次回作以降の話だ。
ともあれ本ミス5位、本格ミステリ大賞候補と高評価を受けたのも納得で、個人的には大賞を射止めても良かったと思う(潮谷験「伯爵と三つの棺」、白井智之「ぼくは化け物きみは怪物」、夕木春央「サロメの断頭台」と傑作揃いにもかかかわらずだ)、好みにスマッシュヒットの傑作だった。

余談だがラストシーンはだいたい(※ややネタバレのため伏せ字)
「コードギアス復活のルルーシュ」だった。


25.7.15
評価:★★★★☆ 9

 


高野結史 / 奇岩館の殺人
     


~あらすじ~
日雇い労働者の佐藤は行方不明の友人を追い、奇妙なバイトに身を投じる。
それは大富豪を顧客とした、現実に殺人が行われる壮大な推理ゲームだった。


~感想~
ガチで人を殺す不謹慎すぎる推理ゲームの運営側が、予期せぬトラブルにあたふたしつつなんとか取り繕って進行していく裏パートと、その推理ゲームに参加したと思われる友人を追う男が、ゲーム内の登場人物として振る舞いつつ真相を探る表パートが同時に語られる凝った構成の力作。
ノリは傑作マンガ「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」さながらに軽く、表裏パートともに状況に振り回され続ける様が面白い。ミステリとしてもコメディタッチの作品だけに強引な面は多々あるが、意外性ある展開が最後まで続き楽しませてもらった。
終盤には作者のミステリ愛も光り、読みどころの多い良作エンタメである。


25.6.30
評価:★★★☆ 7

 


香納諒一 / 心に雹の降りしきる
   


~あらすじ~
7年前に行方不明になった少女の遺留品が発見され、生存を絶望視する県警捜査一課の都筑はしぶしぶ捜査を再開。
その矢先に情報をもたらした男が不審死を遂げ、さらに連関するように様々な事件が起こる。全ては繋がっているのか?

2011年このミス9位

~感想~
先に読んだ解説に「魅力的な主人公」と書かれてる都筑が開始17ページで誘拐被害者の父親を騙してスナックの女に貢いだ金を取り戻してるド級のクズで白目剥いた。
腕は立つが聞き込み中にアイスを食ってサボるし、金を騙し取る過程でそのへんの男に冤罪まで着せてる最悪の都筑は怒涛の展開に巻き込まれさすがに反省の色を見せるも、それで序盤に稼いだ大量のヘイトポイントを消化し切るところまでは行かない。やや複雑な家庭環境のトラウマに苛まれるとタイトル通り「心に雹の降りしきる」がとても同情できず読者の心にも雹の降りしきる。
登場人物と事件が多すぎて煩雑な面はあるが二転三転し続け、意表を突き続ける展開はいたって面白く、都筑へのヘイトこそ最後まで無くならなかったが、話自体は非常に読ませるものだった。


25.6.26
評価:★★★ 6

 


今野敏 / 蓬莱


~あらすじ~
スーパーファミコンへの移植が決まったシミュレーションゲーム「蓬莱」。
ゲーム会社社長の渡瀬はヤクザに販売を撤回するよう迫られる。さらにプログラマーが不審死を遂げ、渡瀬は関与を疑う。
なぜ極道がゲームの販売を止めようとするのか? その裏には思わぬ真実が潜んでいた。

1994年このミス18位

~感想~
オリジナルゲーム「蓬莱」は要するに「シヴィライゼーション」でこれが独自のアイデアならばすごいが、「シヴィライゼーション」は日本でも本作の2年前に発売されており、アイデアを借りた可能性は残る。
明らかにスーファミの性能を超えているのはフィクションだから構わないし、その隠された謎は思いも寄らない方向へ広がっていき、さらに作者の別シリーズの主人公の安積警部補が探偵役として登場するなどエンタメ性は十分。
とどめとばかりに一般サラリーマンの語り手とヤクザによる血まみれのタイマンバトルが15ページに渡って繰り広げられるのもとにかく読者を楽しませようという気概が感じられて良かった。
さすがほぼ昭和ミステリ、ヤクザに殴られた報復はヤクザを殴ってやり返さなくては!


25.6.7
評価:★★★ 6

 


逸木裕 / 彼女が探偵でなければ
     


~あらすじ~
高校時代に天職の探偵業に目覚め、人の本性を暴くことに魅せられてきた森田みどり。
探偵社で上司となった現在も彼女はそれに囚われていく。そして5つの子供の関わる事件と出会い、自らの人生を見つめ直す。

2024年本格ミステリ大賞

~感想~
「わたしの調査に手加減はない」は葉村晶シリーズの短編のタイトルであり、葉村晶を一言で表す言葉でもあるが、森田みどりにもぴったり当てはまる。
いや厳密に言えば調査じゃないことも多いのに手加減しないみどりはもっと怖い。やばい。
そんなみどりが本作では子供達を相手に手加減しない。
原尞「天使たちの探偵」も同様に子供達を相手取った連作短編集だが、独身中年男性の沢崎より二児の母のみどりのほうが子供に関わったらやばい気がするのはなぜだろう。

結論から言うと面白かったけど、面白かったけども本格ミステリ大賞と言われてしまうと、これまでいくつもノミネートされていた、年間ランキングには全く引っ掛からなかったがなぜか大賞の候補に上がり、結局受賞できなかった諸作品と何が違ったのかは正直なところよくわからない。
森田みどりという稀有の探偵は前作「五つの季節に探偵は」含めこの2作で大ファンになったが、本格ミステリ大賞かぁ……。個人的には潮谷験「伯爵と三つの棺」に軍配を上げる。


25.6.2
評価:★★★☆ 7

 


逸木裕 / 五つの季節に探偵は
   


~あらすじ~
私立探偵の父を持つ榊原みどりは友人に頼み込まれ教師を尾行する。
見様見真似の探偵ごっこに彼女は意外な才能を見せ、そして自分の中の大きな欲求に気づく。


~感想~
ミステリ界にはシリーズ物の主役を務める女探偵が何人もいるが、その中でも異彩を放つのがこの榊原/森田みどり(※途中で結婚し姓が変わる)である。
探偵が天職という意味では若竹七海の葉村晶に通じるが、葉村晶とはまた違う、探偵としてしか生きられない、高校デビューというやや遅咲きだが生まれながらの探偵気質で、基本的にモラルがない・ほぼ趣味で探偵をやっている・解決能力だけはある点ではメルカトル鮎や榎木津礼二郎に近い。
「うるせー!趣味だ!」で怪人ガロウもたぶんワンパンで倒せる。
しかしみどりは異能に片足突っ込んでいるメルカトルや榎木津とは比ぶべくもない一般人なので葉村晶くらい危なっかしい。みどりと同じ依頼を葉村晶が受けていたらと想像するとたぶん3回くらい死んでる。
あと怖い。犯人視点の倒叙形式で描かれる彼女の探偵ぶりはもうホラーである。
古畑任三郎やコロンボや福家警部補はあくまで仕事でやっているし、葉村晶だって報酬は受け取っているがみどりはほぼ趣味だし、仕事の範疇を平気で踏み越えてくるのだ。
そういう意味ではキャラ小説に近いが、ミステリとしても飛び抜けた良編こそないが安定感ある仕事ぶりで、本格ミステリ大賞を射止めた続編「彼女が探偵でなければ」の前にまずはここからお試しあれ。


25.5.29
評価:★★★☆ 7

 


古泉迦十 / 崑崙奴
     


~あらすじ~
8世紀、戦乱から復興した長安で進士を目指す裴景は、伝説の崑崙奴めいた使用人から主で裴景の親友が失踪していると聞かされる。
折しも長安では腹を割かれ内蔵を奪われた無惨な死体がいくつも見つかっていた。

2025日本推理作家協会賞

~感想~
デビュー作「火蛾」で各種ランキングの上位を賑わせたものの第2作が出ないまま24年経った幻の作者がまさかのカムバック。
しかも本作で日本推理作家協会賞を射止めてしまい、読者の度肝を二重で抜いた。

24年待たせただけはある、とまでは言わないが豊富な資料を当たって丹念に描かれた重厚な世界観は特筆もので、ディテールの細かさに圧倒される。
しかし物語は至って地味で、語り手はちょっとびっくりするほど長所はおろか特徴もない凡人で魅力に欠ける。武侠小説的な要素も少しはあるがメインを張るほどではなく、トリックも推理も目を引くものはない。
その中で存在感を放つのが各所に漂う京極夏彦リスペクトだ。
誰もが真っ先に思い浮かべるのが「魍魎の匣」で、次に「鉄鼠の檻」と「塗仏の宴」。「陰摩羅鬼の瑕」と「絡新婦の理」も見え隠れし、ラストは「姑獲鳥の夏」で締める。特にアレは意識していないと言われたら絶対嘘だろう。
固有名詞の多さと歴史背景の特異さでやや読者は選ぶし、「火蛾」のように本格ミステリとしてあまり評価は得ないだろうが、歴史エンタメミステリの佳作ではある。


25.5.20
評価:★★★☆ 7



長沢樹 / 夏服パースペクティヴ
   


~あらすじ~
革新的な映画監督の真壁梓は高校生歌手コンビHALのMV撮影をドキュメンタリーとして撮影する新作を発表。
オーディションに合格した樋口真由らはスタッフとして二重構造の撮影に参加するが、真壁には別の思惑があった。

2013年本格ミステリ大賞候補


~感想~
本格ミステリ大賞の候補に上がったのも納得の凝りに凝った構成で、ドキュメンタリーのドキュメンタリーというただでさえ虚実織り交ぜた二重構造に、それを活かしたありったけのトリックとプロットをぶち込み、合間には背景を語る伏線となる断章を挟んでそれらを補強する。
過剰なまでに熱の入った力作ながら難点がいくつか。

まず前作「消失グラデーション」の存在がネックで、ただでさえ諸事情によりシリーズ化が困難な代物なのに、前作のネタバレ無しでこの第2作を書いているため前作に関わる描写がとにかく窮屈。
それなのにたぶん前作を読んでいなくても真相に気づいてしまうだろうあからさまな匂わせやほのめかしが豊富で、わざわざネタバレ無しにした意味はほとんど感じられない。作者がネタバレしないよう書くのは楽しかったかもしれないとは思うが。
未読の方は絶対に先に読んでおくことをおすすめする。

個人的に最もうんざりしたのが真壁梓のキャラ造型で、「認知症の祖父を祖母のふりして誘惑してみた!」が代表作のただ脱ぎっぷりがいいだけの炎上系YouTuberみたいな実績しか無いくせにやたら評価されているのがまず腑に落ちない。
現代コンプラなら秒で社会的に抹殺されているし「してみた!」もオチがつかなかったのでヤラセでお茶を濁したことを得意げに初対面の高校生に明かしてしまう。ネットに晒される危機感とかないの?
そんな実績・実力ともに疑問符のつく自称ゲージツ家の彼女は、口を開けばマウントを取るか人間性をこき下ろすか下品なセリフを吐くかの三択で、しかも極めて自分勝手な理屈で撮影中常に周囲を振り回し、ヘイトを一身に集めてやまない。
もちろん本格ミステリ大賞候補なのでそれぞれに理由はつくが、それでタンク役を解かれるほどヘイトが減ることはなかった。

あとこれはただのツッコミどころだが、幼馴染の男女が終始イチャイチャし震える彼女の肩を抱いて頬を伝う涙を指で拭ってやりながら「お前のいいとこ全部知ってる」とささやき、その手を両手で握り返されてるのに全然付き合ってないし幼馴染だから恋愛感情ゼロなのも説得力と現実味なさすぎてずっと納得行かなかった。もう付き合っちゃえよ!!!


25.5.8
評価:★★★ 6



衣刀信吾 / 午前零時の評議室
     


~あらすじ~
裁判の事前オリエンテーションとして判事に集められた7人の裁判員たち。しかし彼らは過去の冤罪事件との縁から罪を問われ、評議室に閉じ込められる。
審議中の裁判が無罪か有罪かを解き明かさなければ午前零時に部屋は爆破される。生死を掛けた評議が始まる。

2025年日本ミステリー文学大賞新人賞


~感想~
デスゲーム×法廷×本格ミステリという頭の悪そうな(失敬)設定だが、作者は所属事務所を明らかにし検索すればペンネームそっくりの本名も確認できる御年61歳の現役弁護士。デビュー作ながらデスゲーム・法廷・本格ミステリのいずれも高水準でまとめる確かな手腕を見せた。

まずデスゲームはアクシデントが続発して思い通りに進まず、評議室の内外では丁寧に法廷さながらの検討がなされる。そのさなかにいかにも本格ミステリらしい事件も発生し、タイムリミットサスペンスと推理ゲームが両輪で進んでいく。
リアリティよりもエンタメ性を重んじ、某超有名作品を思い出さずにはいられない、ちょっと奇をてらい過ぎな大仕掛けやどんでん返しが相次ぐが、言われてみれば確かに書いてる豊富な伏線で説得力を持たせてしまう。
二転三転し続け、最後の最後までどこに着地させるのかわからない、盛りだくさんの実に楽しい作品である。
これがデビュー作ならではのてんこ盛りかはっきりさせるには次を待つ他ないが、次回作にも期待せざるを得ない。


25.4.24
評価:★★★★ 8



若竹七海 / まぐさ桶の犬
     


~あらすじ~
隣人に付き添いパーティーに参列した葉村晶は、一癖も二癖もあるその親族たちの暗闘に巻き込まれる。
親族の一人でエッセイストの乾巌に人探しを依頼されるが、それは親族の泥沼の争いに関わっていた。


~感想~
葉村晶シリーズ待望の長編。…だったがこれまでの傑作群と比べると数枚落ちるか。
まず一族のドロドロの争いを描いたせいで人間関係が極めてややこしく把握しづらい。意外な血縁が明かされても誰が誰やらで、驚く前に誰の話をしているのか理解するのに一苦労。キャラ数もおそらくシリーズで最も多い。

また有能だが不運な葉村晶が次々と厄介事をふっかけられるのはいつものことだが、今回は自分勝手なメンツ揃いなせいもあり明確に悪意があったり、思いやりが無かったりで理不尽な目に遭うのが多すぎて、ちょっと引いてしまった。
加齢とブランクゆえか推理の冴えもいまいちで捜査や論理も後手に回り続け、最後まで巻き込まれたまま終わってしまった感も強い。
ミステリファン必読のシリーズとして推しているだけに久々の長編に期待しすぎてしまっただろうか。


25.4.16
評価:★★☆ 5



辻真先 / にぎやかな落葉たち
   


~あらすじ~
石割桜のそばに建てられたグループホーム若葉荘には、切り盛りする元少女作家の野末寥を筆頭に、個性豊かな入居者と職員が集う。
だが豪雪の中、密室殺人が発生。なぜ今、誰がこの時に犯行に至ったのか? 因縁は数十年前にさかのぼる。


~感想~
典型的な雪の山荘と密室殺人を題材にしながら、事件が起こるのは後半で、やたらとキャラ立ちした登場人物たちの日常と過去が延々と積み重ねられる。
密室トリックは平凡で、過去の因縁も被害者の正体も予想の範疇ながら、最後の最後に明かされる犯行経緯と動機が実に強烈。
東野圭吾の某作を思い出させる犯行経緯と、丹念な描写の蓄積で納得させてしまう動機の2本立てを見せられては、全ての不満が吹き飛ぶ。
一読の価値ある良作である。


25.4.8
評価:★★★☆ 7



島田荘司 / 伊根の龍神
     


~あらすじ~
伊根湾に龍神が現れたと聞き、見物に行こうとした石岡和巳は御手洗潔に止められる。
「本当に危険なんだよ石岡君。近寄ってはいけない」
しかし石岡は行動力ある女子大生の藤浪麗羅に強引に連れ去られてしまう。


~感想~
本作がタイトルだけ告知されたのは何年前のことだろうか。
2016年刊行の「御手洗潔の追憶」で改めて言及されるとともにある趣向が明かされたが、それからも早や9年、まさか本当に発売されるとは思わなかった。

開始20ページで原発・奇想かと思ったらただの童話・新たなる語尾伸ばしギャルが現れ、もはや老境に差し掛かった石岡くんがほぼ初対面のギャルに伊根へと連れ去られる怒涛の展開。
その後も近年の作者らしい、秦の始皇帝はユダヤ人!徐福もユダヤ人!天皇家の祖先は徐福!あと砂糖は有害!と一線を踏み越える陰謀論その他をわめきちらす。石岡くんや御手洗の発言じゃなければセーフってわけじゃないんですよ?
展開もとにかく色々と粗く、ギャルと同室で普通に寝る石岡くんはまだしも、殺人犯かもしれない男の民宿で危機感なく普通にもう一泊したり、石岡くんの100倍目立ちそうな横浜のギャルを差し置き石岡くんが顔を隠したらなぜかついさっき会った男に気づかれなかったりと不自然な描写が散見される。
肝心のトリックも大掛かりだがだいたい知ってたもので、とにかく色々とアレな作品だったが、では楽しめないかというと我々古株の信者はラスト30ページで大満足できるからファンには安心しておすすめできるのは確か。それが「御手洗潔の追憶」で言及されていたことは完全に忘れていたので、同じく忘れている方は読み直さないほうがいいだろう。

「ローズマリーのあまき香り」の100倍は面白かったが比較対象があれなだけだし、2020年を舞台にしたのもちょっと無理があり、「ローズマリー」で「御手洗ワールドではコロナもウクライナも起こらないのだろう」と推理したのも完全に外れてしまったが(じゃあなんだったんだよあれは!?)個人的にはニコニコしながら読み終えられた。


25.3.28
評価:★★★ 6



潮谷験 / スイッチ 悪意の実験
   


~あらすじ~
家族経営のパン屋への援助を打ち切るか否か?
心理コンサルタントの安楽是清は6人の学生・職員らに純粋な悪意の存在を測る実験として高額バイトを持ちかける。
期間の終盤、思いも寄らない事態が訪れ、そしてパン屋にも事件が起こる。

2021年メフィスト賞


~感想~
後に「伯爵と三つの棺」で年間ランキングを賑わせた作者のデビュー作。
「伯爵と三つの棺」は空恐ろしくなるほどの完成度の高さと、歴史的事件の当事者の手記という設定から外れた軽妙な描写が楽しかった作者だが、デビュー作とありどちらも控えめ。
とはいえある意味でタイムリミットサスペンスのような設定を活かし、タイムリミットとともに起こる2つの事件から始まる推理と駆け引きは十分に読ませる。
トリック自体はごく単純な論理から導けるシンプルなもので、正直長編を支えられるレベルにないが、主眼は動機と解決をめぐる駆け引きのほう。
京極夏彦「鉄鼠の檻」を思い出さずにはいられない終盤の問答もそうだが、論理戦や心理戦というよりもやっていることはほぼ憑物落としで、決着手こそ荒唐無稽なものだったが作中で繰り返し示唆されており納得感はある。
内容に比して間延び感があったことは否めないが、最後まで面白く読めた。


25.3.22
評価:★★★ 6



柚月裕子 / 暴虎の牙
 


~あらすじ~
昭和57年、半グレ集団呉寅会を率いる沖はマル暴刑事の大上に目を付けられる。
沖はカタギに手を出さずヤクザだけを標的にしており、笹貫を恨む大上は共倒れにさせようと画策する。

2020年文春9位

~感想~
シリーズ第3作。
2部パートに分けられ前半は第1作「孤狼の血」の大上、後半は第2作「狂犬の眼」の日岡が捜査側で登場するが、本作の主役は呉寅会を率いる沖。
沖は筋を通しカタギにこそ手を出さないがクサレ外道には違いなく任侠とは呼び難い。
これまでのシリーズではミステリ的にも美味しい仕掛けがあり、今回も裏切り者は誰かという謎があるにはあるが、京極夏彦「陰摩羅鬼の瑕」くらいほとんど隠す気はなく、それこそ「陰摩羅鬼の瑕」のように、自明の理に一人だけ気づかない悲哀を描いており、そのあたりの期待もできない。
また後半に登場する日岡が文庫版解説も指摘する通り、大上と比べると実力的に全く及ばず、「狂犬の眼」よりさらに進歩した姿が見られず残念だった。

前2作にこそ引けは取ったが、警察 VS ヤクザ小説の傑作シリーズとしては十分な新作であり、てっきり完結編と思っていたがどうやら明言はされていないようで、シリーズ再開があるならその時にはミステリ的な魅力も日岡の飛躍も見せてもらいたいと願う。


25.3.16
評価:★★★ 6



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