泡坂 妻夫


11枚のとらんぷ
   


~あらすじ~
奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で死体となって発見される。
しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。
鹿川は、自著を手掛かりに謎に迫る。 

東西ベスト(1985)16位、東西ベスト(2012)38位、本格ベスト21位、1976年日本推理作家協会賞候補

~感想~
すごい。その一言に尽きる。
長編の面白さを、存分に堪能させていただいた。
処女作だけに、軽妙洒脱さは不十分、文体も洗練されてはいないものの、この伏線、伏線、また伏線の細緻さ、
構成の妙味、豪奢さはすごい。すごいすごい。
これぞ魔術、そして至高の大傑作。


01.12.17
評価:★★★★★ 10



乱れからくり


~あらすじ~
玩具商の製作部長を務める馬割朋浩は海外旅行への途上、降ってきた隕石に当たり命を落とす。
新米探偵の勝敏夫は、馬割一族の邸宅『ねじ屋敷』を訪ねるが、そこは巧妙な仕掛けをほどこした殺人屋敷であった。くり返される殺人と推理。江戸時代にまでさかのぼる馬割一族の謎とは?

1977年日本推理作家協会賞、直木賞候補、東西ベスト(1985)22位、東西ベスト(2012)34位、本格ベスト11位

~感想~
(ネタバレ→)
章ごとのタイトルにまで仕組まれた細工、姿なき殺人者と見せてその実……といった真相など、とにかく巧緻。枯れ井戸の件など、多少強引な面もあるが、見事な傑作。


01.12.18
評価:★★★★ 8



亜愛一郎の狼狽
     


~収録作品~
DL2号機事件
右腕山上空
曲がった部屋
掌上の黄金仮面
G線上の鼬
掘出された童話
ホロボの神
黒い霧

東西ベスト(1985)17位、東西ベスト(2012)16位、本格ベスト6位

~感想~
『DL2号機事件』
奇妙な論理が、奇異な心理と行為を照らしだす。妄想あふれる怪作。

『右腕山上空』
豪快な一本背負いも「技あり」までか。強引にすぎる解決はいまひとつ。だが、目に浮かぶトリックが映える。

『曲がった部屋』
奇怪な行動の裏に潜む、曲がった論理。楽しい。

『掌上の黄金仮面』
これは恐れいった。見れば見るほどよく練られたトリック。不可能状況が逆転の発想で鮮やかに解かれる傑作。

『G線上の鼬』
不可思議な論理が不可能犯罪をひもとく。単純明快ながら鉄壁に近いトリック。

『掘出された童話』
暗号オンリーだが、物語として十分に面白い。よくこんなの作ったなあ。

『ホロボの神』
風通しの良さそうな、衆人環視の密室。設定に比して、トリックはやや物足りないが。

『黒い霧』
本領発揮の軽妙なスラップスティック。強引な真相が心地よい。


~総括~
こんなに勘が鋭い探偵も珍しい。軽妙・明快な筆致で描かれた、不可能状況のオンパレード。
珠玉の傑作短編集。


00.8.14
評価:★★★★ 8



煙の殺意
-  


~収録作品~
赤の追想
椛山訪雪図
紳士の園
閏の花嫁
煙の殺意
狐の面
歯と胴
開橋式次第


~感想~
『赤の追想』
妄想。もちょっと飛躍しすぎで、伏線も物足りない。氏にしては。

『椛山訪雪図』
俗物には、実際に見ないことには感慨は湧かない。

『紳士の園』
逆にこの一編には嘆声ひとつ。こんな手があったか!

『閏の花嫁』
これも異色の佳品。まさに人を食った話。いや見事。

『煙の殺意』
さて、どうからめてくるかと期待に胸をふくらましたら……そのままか。物語の明快さが際だっているだけに惜しい。タイトルには感心。

『狐の面』
トリックはどうも……だが、話自体が面白い。欲を言えば聞き手も筋にからませてほしかった。

『歯と胴』
トリック云々よりも、執念の物語にうなる。(ネタバレ→)
犯人の過失ゼロで犯罪がバレるのは目新しい。天網恢々疎にして漏らさず。

『開橋式次第』
参った。なんだこの伏線の山は。犯人は明々白々も、そこまできちんと細かく配慮をして……。
この人物造型。軽妙洒脱。いや魅事。


~総括~
一つ一つを取り出してみれば、意外に小粒。傑出した逸品はわずか。
しかしたった一冊に、これだけ多彩な宝石がずらりと勢ぞろい。とくと御賞翫あれ。


02.5.23
評価:★★★★☆ 9



湖底のまつり


~あらすじ~
傷心旅行に出た香島紀子は、山間の村で急に増水した川に流されてしまう。救い出してくれた埴田晃二という青年とその夜結ばれるが、翌朝晃二の姿は消えていた。
村祭でにぎわう神社で、紀子は晃二がひと月前に殺されたと知らされる。では昨日、晃二と名乗っていた人物は誰なのか。

本格ベスト87位

~感想~
普段の軽い洒脱な文体からかけ離れた、幻想譚としか言いようのない展開と筆致にまずは驚かされる。
だが真に驚くべきは、この幻想小説がある一点を境に現実の景色へと変貌するところにあるのだが――。中途で真相に気づいてしまったのが無念。
しかし真相が見抜けても、寒村の雰囲気や絡み合った背景など見どころは多く、その精緻な結構とトリックを楽しめるのはいいところ。
もちろんトリックにすんなり騙されれば最上級の幸運。作者の代表作に挙げる人が多いのも納得の一作。


09.6.13
評価:★★★ 6



花嫁のさけび


~あらすじ~
映画スター・北岡早馬との結婚で伊津子は幸せの絶頂にあった。
しかし彼女を迎え入れた北岡家の人々は、早馬の先妻・貴緒のことが忘れられず、最愛の夫もその例外ではなかった。謎の自殺を遂げたという貴緒の面影が色濃く残る邸で、やがて悲劇の幕が切って落とされる。

1980年文春8位、吉川英治文学新人賞候補

~感想~
大仕掛けは大仕掛けすぎて、舞台裏を黙々と眺めさせられているよう。
トリックはてんでひねりがなく、意外性に乏しい。筆致はさすがの冴えなのだが……。


02.9.30
評価:★★ 4



迷蝶の島


未作成



喜劇非奇劇


~あらすじ~
落ちぶれた奇術師・楓七郎は、かつての仲間から仕事の依頼を受けた。
船上ショウに出演するため船へ乗りこんだ彼を待っていたのは、なんとも奇妙な連続殺人。
被害者たちはみな、上から読んでも下から読んでも同じに読める“回文名”を持つ者ばかりだった。


~感想~
(ネタバレ→)
ハウダニットと見せかけ、実はフーダニットという仕掛けは珍しい。
登場人物が多すぎて飽和ぎみになり、やや雑多な印象。
個人的には主人公に立ち直って欲しかったが。



01.12.19
評価:★★★☆ 7



亜愛一郎の転倒
-  


~収録作品~
藁の猫
砂蛾家の焼失
珠洲子の装い
意外な遺骸
ねじれた帽子
争う四巨頭
三郎町路上
病人に刃物


~感想~
『藁の猫』
(ネタバレ→)たまたま『QED東照宮の怨』を読んだ直後だったので……。

『砂蛾家の焼失』
なるほどなるほど。さりげなく張られていた伏線のラッシュに感服。

『珠洲子の装い』
メイントリックよりもむしろ、最後の一言に拍手。脇の固め方が本当にうまい。

『意外な遺骸』
これまた伏線がうまいうまい。展開・描写もいかにも『亜』もので、満足。

『ねじれた帽子』
内容云々よりも、主人公(?)の魅力に脱帽。なぜ使い捨ての登場人物にも、ここまで血を通わせられるのか。

『争う四巨頭』
ケーキ屋がいい。こういうどうでもいい横道が見事。

『三郎町路上』
これはトリックに脱帽。単純にしてインパクト抜群の真相。

『病人に刃物』
逆転の真相、そしてトリックではなく論理に張られた伏線が見事。かゆいところに手が届く。


~総括~
トリックとロジックの双方に張られた職人細工の伏線。あまりにも魅力的な人々がおりなす喜劇非奇劇。
奇手巧手妙手が冴えわたる珠玉の短編集。
……だが一つ欠点を挙げるなら、創元推理文庫の解説。
それがもしも田中芳樹のものだったら……『逃亡』を読了前に絶対に読まないことをオススメします。興ざめです。


01.5.1
評価:★★★★☆ 9



妖女のねむり


~あらすじ~
樋口一葉の遺稿らしき紙片を見つけ、真贋を確かめるべく上諏訪へと向かった柱田真一。
彼の前に現れた謎めいた美女は言う。「わたしたちは結ばれることなく死んだ恋人たちの生まれかわりよ」
真一も彼女に奇妙な既視感を覚えており……。

1983年文春10位

~感想~
小技をひとつひとつ、延々と積み重ねていったよう。
要のトリックは……(見当の付いた方だけネタバレ→)
どう見ても『ロシア紅茶の謎』と同じですよね?
また、最後のグラビアの伏線には驚いた。


02.10.25
評価:★★☆ 5



ヨギ・ガンジーの妖術
   


~収録作品~
王たちの恵み
隼の贄
心魂平の怪光
ヨギガンジーの予言
帰りた銀杏
釈尊と悪魔
蘭と幽霊


~感想~
『王たちの恵み』
逆転が秀逸。トリックといい奇術といい伏線といい……まことにお見事な佳品。

『隼の贄』
伏線は巧妙だが、奇術がちょっと有名すぎた。

『心魂平の怪光』
小道具の扱いが本当にうまい。

『ヨギガンジーの予言』
逆か! と思わず唸りたくなるトリック。

『帰りた銀杏』
(ネタバレ→)
人はともかくなぜ大に? ちょっと理解できなかった。

『釈尊と悪魔』
手がかりを事前に明示していないのは手落ち? 奇術もなくてさみしい。

『蘭と幽霊』
こんなところで(ネタバレ→)
ポスターがからんでくるとは。 伏線が冴える。


~総括~
氏らしい丁寧に編まれた作品ぞろい。な半面、インパクトには欠ける華のなさ。


01.8.27
評価:★★☆ 5



花嫁は二度眠る
   


~あらすじ~
従妹の貴詩に兄のように慕われている幹夫は、それぞれの結婚式を同じ日に挙げることを誘われた。
貴詩はその前日に実家の「まいまい屋敷」から荷物を運ぶように頼む。その「まいまい屋敷」では数ヶ月前に貴詩の祖母カナが、二度殺害されたような奇妙な姿で発見されていた。

1984年文春10位

~感想~
これぞ泡坂ミステリと快哉を叫びたくなる傑作。
泡坂妻夫の真骨頂というべき見事な、そして豊富にまかれたさりげない伏線の山。平易な文体でさらりと書かれた物語のそちこちに伏線があるわあるわ。
二度殺された犠牲者という魅力的な謎と、合理的な解決。巧みに隠された真相もきれいに決まって非の打ちどころがない。これが絶版(?)なんて惜しすぎる。
唯一ケチをつけたくなるのは光文社文庫版の解説。ネタバレではないが、真相をにおわせすぎているので、読むなら読了後にすべし。


08.6.9
評価:★★★★ 8



亜愛一郎の逃亡
 


~収録作品~
赤島砂上
球形の楽園
歯痛の思い出
双頭の蛸
飯鉢山山腹
赤の賛歌
火事酒屋
亜愛一郎の逃亡


~感想~
『赤島砂上』
展開はそのまますぎたが、おまけの宝探しが冴える。

『球形の楽園』
これって……(見当のついた方だけネタバレ→)
『三毛猫ホームズの推理』赤川次郎著 のトリックとまんま同じやん。

『歯痛の思い出』
妄想さながらの論理。こんなこと普通、思いつかん。

『双頭の蛸』
謎の設定が珍しく解りづらい。まあ、明確にすると犯人が一人になるけど。

『飯鉢山山腹』
これはどこに謎があるのか明白すぎる。

『赤の賛歌』
これも妄想。言葉遊びが実に楽しい。

『火事酒屋』
本領発揮。最後の詰めとなる手がかりが、序盤から一見なんの関わりもなさそうに示されているのが、巧みすぎる。

『亜愛一郎の逃亡』
田中芳樹のおかげで台無し。とはいえ、まさに大団円の大集結には感嘆。ここまでやるか。


~総括~
蛍の光、窓の雪。おなごりおしき名・迷・銘探偵。至福の時は二度と帰らぬのか?
他では味わえない「亜愛一郎」の物語も、これにて劇・終。


01.6.15
評価:★★★☆ 7



ゆきなだれ
   


~収録作品~
ゆきなだれ
厚化粧
迷路の出口
雛の弔い
闘柑
アトリエの情事
同行者
鳴神


~感想~
久し振りの春だから、暖かすぎたんだよ。二十年も解けずに積もっていた雪が、そのためになだれを起こしてしまったんだ。

追悼泡坂妻夫。

純文学真っ青の筆力、情感は言うまでもないとして、どの短編にも発想の逆転や意外性を忍ばせているのがさすが。泡坂妻夫がミステリを選んでくれたことを感謝したくなる。
手持ちの泡坂積ん読本を一気に片付けてしまおうかと思ったが、「ゆきなだれ」を読んでそれももったいなくなってしまった。
読むたびに心に残っていく作品ばかりで、読み終えてタイトルを見返すだけで場面がよみがえってくる。ゆっくりと折にふれて読み進めていこうと思う。


09.2.8
評価:★★★ 6



猫女
-    


未作成



ダイヤル7をまわす時
 


~収録作品~
ダイヤル7
芍薬に孔雀
飛んでくる声
可愛い動機
金津の切符
広重好み
青泉さん


~感想~
『ダイヤル7』
メイントリックよりもむしろ、サブトリックの巧みさに感服。犯人を当てるのは容易だが、そこに至るまでの過程が精緻きわまりない。とにかく爽快な傑作。

『芍薬に孔雀』
そう来たかあ。構成はまさに魔術さながら。動機がちょっと島田荘司っぽい。

『飛んでくる声』
これは少し簡単だったか。

『可愛い動機』
ある意味、本書中で最も感心した作品。なんてこたあない(こともないけど)話を、見せ方一つで変貌させた腕の冴え。すごい。

『金津の切符』
これまた見事。憎たらしい敵役と、待ち受ける顛末。皮肉が実にいい。

『広重好み』
逆転。の発想はさすがだが、やや印象薄。

『青泉さん』
なんとも魅力的な人物像を、たったこれだけの文で作り上げる。
シリーズ化もできそうな使い捨ての登場人物たち。さすがさすが。


~総括~
本当に、本・当・に・素晴らしい短編集。傑作傑作また傑作の嵐。あまり知られていないのが惜しすぎる。


00.12.5
評価:★★★★☆ 9



妖盗S79号
 


~収録作品~
ルビーは火
生きていた化石
サファイアの空
庚申丸異聞
黄色いヤグルマソウ
メビウス美術館
癸酉組一二九五三七番
黒鷺の茶碗
南畝の幽霊
檜毛寺の観音像
S79号の逮捕
東郷警視の花道


~感想~
トリックは小粒。しかし主人公(?)の刑事2人を筆頭に、いつもながらの軽快な筆致。
たったこれだけの分量でつむぎ上げる起承転結。さすがの手際。
最後の大団円にニヤリ。


評価:★★★☆ 7



しあわせの書
     


~あらすじ~
二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体。
超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。
41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ。

マジシャンでもある著者が、この文庫本で試みた驚くべき企てを、どうか未読の方には明かさないでください。

1987年文春6位、東西ベスト(2012)68位

~感想~
予備知識なしで、読んでもらいたい。とにかく驚かされるはず。空前絶後の(?)異色作。


00.10.23
評価:★★★ 6



奇跡の男
 


~収録作品~
奇跡の男
狐の香典
密会の岩
ナチ式健脳法
妖異蛸男

1988年このミス11位

~感想~
『奇跡の男』
見事。凝った作りは実に堅固。奇想もフーダニットも定石も無しにこんな傑作をものせる腕前に脱帽。

『狐の香典』
『可愛い動機』の焼き直し、という感じもするが、巧みなことに変わりはない。

『密会の岩』
泡坂作品として見れば、辛い評価は否めない。

『ナチ式健脳法』
なんだこれはなんだこれはなんだこれは。よくもまあ、こんなことを思いつく。

『妖異蛸男』
豪華。伏線・展開・論理・トリックと、惜しげもなく辣腕をふるう。


~総括~
傑作・怪作めじろおし。これまた珠玉の短編集。


00.12.12
評価:★★★★ 8



折鶴
 


~収録作品~
忍火山恋唄
駈落
角館にて
折鶴


~感想~
「死んだら化けて出てやりたいんだが、一体どこへ出たらいいのか。この頃はそればっかり考えていますよ」

『忍火山恋唄』『折鶴』の2作は直木賞候補。
佳作ぞろい。『忍火山恋唄』は正直拍子抜けというか、子供騙しとまでは言わないもののトリックにがっかりしたが、シンプルにまとめて人情を利かせた『駈落』、職人の意地と悲哀を描き表題作の貫禄を見せた『折鶴』もいいが、最も印象に残ったのは『角館にて』。読んだ直後にはあまりピンと来なかったが、無言の女と能弁な男の静かな応酬が見物。言葉少なだった女が実は男よりも雄弁に語っていたという構成にうなった。
いずれ劣らぬいぶし銀のハズレ無しの作品集。絶版ながらオススメです。


07.3.10
評価:★★★ 6



斜光
-  


未作成



蔭桔梗
 


~収録作品~
増山雁金
遺影
絹針簪
蔭桔梗
弱竹さんの字
十一月五日
竜田川
くれまどう
色揚げ
校舎惜別

1990年直木賞、山本周五郎賞候補

~感想~
直木賞受賞作。
ミステリこそほぼ皆無だが、見逃せない佳作ぞろい。直木賞って聞くと「うう~む」だけど。
一編あげるなら『くれまどう』が出色の出来。


02.6.10
評価:★★★ 6



黒き舞楽
   


~あらすじ~
一刀彫りの郷土人形を作る旧家に嫁いだ女性が次々に不審な死を遂げる。
最初の妻は交通事故に遭って家に戻ったその晩に、二番目の妻は心臓発作で急死。どちらも夫は不在だったという。
その家には江戸時代から伝わる美しい浄瑠璃人形があり、それにはただならぬ因縁が絡んでいて……。

1990年このミス12位

~感想~
それこそ泡坂妻夫か連城三紀彦ででもなければ、誰が書いてもバカミスに転げ落ちるだけの物語だが、そこはミステリ界最高峰の筆力を持つ泡坂妻夫。バカミス同然のアイデアを卓越した筆致で格調高くまとめ上げ、異形の恋愛譚に昇華してみせた。
はっきりしたことは何一つ書いていないのに、濃厚に漂うエロティシズム(この単語生まれて初めて使ったわ)と、人形遣いの歴史に怪談さながらの江戸時代の因縁譚を絡め、中編程度の分量で描ききる手腕はさすがのもの。
一言で言えば(超ネタバレ→)
夫がマグロ専の絶倫でした というだけの物語が文学作品になってしまうのだから恐れ入る。
これのどこがこのミス12位なのかはよくわからないが、1アイデアを豪腕でミステリと純文学の融合品に仕立て上げた異色作として、味わってみるのも悪くない。


11.1.13
評価:★★☆ 5



毒薬の輪舞
 


~あらすじ~
精神病院で続発する奇怪な毒殺事件。
自称億万長者、拒食症の少女、休日神経症のサラリーマン……。はたして殺人鬼は患者か、それとも医師なのか?
病人を装い、警視庁の名物刑事・海方が姿なき犯人を追う。

1990年このミス17位

~感想~
あまりに魅力的な登場人物たちに感銘。伏線はいまいちアンフェアだが……さすがの一品。


01.12.21
評価:★★★☆ 7



砂のアラベスク
   


~あらすじ~
カサブランカを訪れた男は機内で会ったフランス人女性に心を奪われる。しかし甘美な夜を過ごした翌日、見知らぬ男に撃たれ――「砂のアラベスク」
奇術大会のためスペインを訪れた一行。男は人妻に心を奪われるが、彼女の胸には倒錯した想いがあった――「ソンブラの愛」
何から何まで自分を真似しようとする若いモデル。彼女は女である自分に想いを寄せており――「夜の人形」
商売敵同士の家に産まれた男と女。死の床に臥した女は、自身の若い頃を撮影した8ミリを形見として男に託す――「裸の真波」

~感想~
恋愛小説というジャンルは僕にとって最も興味のない部類なのだが、こと泡坂妻夫の手に掛かればそれが忘れ難い一編となる。
表題作「砂のアラベスク」はミステリとしての側面が最も色濃い一編で、真相が明かされるやそれまで見えていた構図が一変し、全く違う物語が描かれる奇術さながらの手管が素晴らしい。
「ソンブラの愛」は作者が実際に参加した奇術大会を基に、泡坂ミステリではおなじみの「奇妙な論理」と言い換えられるだろう、倒錯した恋愛譚が語られる。一つ間違えば恋愛小説として成立しない異様な思考を、論理として、恋愛感情の一種として、巧みに組み上げるのはさすがである。
「夜の人形」、「裸の真波」は中編ばりの分量だった前二編と比べ短いものの、「夜の人形」はやはり奇妙な論理を、「裸の真波」はこれぞ泡坂作品と言いたくなる、一作限りの登場人物たちに血の通った個性を持たせ、それぞれ深い印象を残す。
今さらこんなわかりきったことを言う必要は全く無いが、やはり泡坂妻夫は何を書いても面白い。


13.4.16
評価:★★★☆ 7



雨女
ぼくたちの太陽 改題
   


~収録作品~
雨女
蘭の女
三人目の女
ぼくたちの太陽
危険なステーキ
凶手の影


~感想~
『雨女』
絶妙。裏に潜んだ真意が妖しくも切ない旋律をかなでる……とか気どったコメントは吐かない。(吐いとるがな)
あいつ、身勝手すぎ。でも巧み。参った。

『蘭の女』
印象は最も薄い一作。感想も思いつかない。

『三人目の女』
どこかでほぼ同じ着想の作品を見た。そればっかり気にかかって読後感薄。

『ぼくたちの太陽』
奇想。妙手。凄絶。納得。脱帽。感服。

『危険なステーキ』
たった一つの着眼点で、すべての謎が砕け散る。こういう作品、大好き。

『凶手の影』
残酷・酸鼻。それでいて軽快・滑稽。ブラックジョークが小気味いい佳作。


~総括~
細緻。しかしそれをうかがわせない軽妙さ。まさにまさにの泡坂作品。


01.5.3
評価:★★★★☆ 9



旋風
   


未作成



写楽百面相
-


~あらすじ~
二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれは、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。
しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。いったい誰がいつ描いたのか……。
上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関など江戸の文化と粋を描ききった力作。

1993年このミス12位

~感想~
序盤からとにかく固有名詞の連発で圧倒される。しかしそこはミステリ界きっての筆力を持つ泡坂妻夫、一人ひとりしっかりと書き分けられ読者は混乱することはなく――なんてことはなく、普通に誰が誰やら判別がつかない。
さらに、さしたる説明もなしに江戸時代の専門用語が飛び交い、時代小説を読み慣れない向きには意味が通じない描写が頻発。人物も描写もわからなくてはもう物語を追うことも容易ではない。
肝心の写楽の正体も言葉遊び(というかダジャレ)の果てにひねり出されて、興味も引かれなければ驚きもない。
ラストは箇条書きの年表で締める構成もそっけなく、ミステリとしても時代小説としても最後まで読みどころがなかった。
この作品を楽しむための経験値が僕にはなかったということで、ひとつ。


10.6.8
評価:★ 2



夢の密室
   


~収録作品~
石の棺
蛇の棲処
凶漢消失
トリュフとトナカイ
ダッキーニ抄
夢の密室


~感想~
泡坂作品初のハズレ。見るべきところは「こんなものも書くんだ」という目新しさのみ。言いすぎ。
野心作ではあるが、退屈。だから言いすぎ。


評価:☆ 1



恋路吟行
   


~収録作品~
黒の通信
仮面の恋
怪しい乗客簿
火遊び
恋路吟行
藤棚
勿忘草
るいの恋人
雪帽子
子持菱


~感想~
「恋」を主題にした短編集。
いまさら言うまでもない、流れるような文体と情感あふれる味わい。
ただ読んでいるだけで幸せになれる作品ばかり。それがたとえ悲劇で終わろうとも、皮肉で閉じられようとも、その作品世界に浸れることが、とにかく至福。
僕にとって氏は、そんな稀有の作家である。
一編挙げるなら『黒の通信』が印象深かった。


06.1.19
評価:★★☆ 5



弓形の月
-    


~あらすじ~
劇団員の五月は誤配された速達が縁で、同じマンションに住む同姓の弓子を知る。
弓子の容姿もさりながら、五月の目をひいたのはその速達が封も切らずに捨てられたことだった。
次の日、五月は路上で若い娘とキスしている弓子を目撃する。
男、女、両性具有、妖しい混沌の世界が展開する幻想ミステリー。

1994年このミス17位

~感想~
幻想ミステリだとは聞いていたが、完全無欠にファンタジーに転げ落ちていくとは予想の外。
せっかくのミステリ的な構成を形作っていた謎が、ファンタジーの枠内で解かれてしまい、がっかり。
終盤、急激に文体が崩壊する様を見ても、ミステリととらえるより幻想小説として取り組むべき。単純に好みのうちではなかった。
ただ、暗号だけは今まで見てきた暗号の中でも最も解りやすく、面白いものではあった。


08.6.10
評価:★★ 4



生者と死者
     


~概要~
そのまま読むと幻想的な短編小説。とじられたページを切り開くと、短編が長編ミステリの一部として回収され消えてなくなってしまうという奇術小説。

1995年このミス17位、文春5位、本格ベスト89位

~感想~
考えれば考えるほど、恐ろしくよく練られた作品。
いかにも氏らしい幻想的な短編が、実は長編ミステリの一部であるというだけではなく、本編の伏線でありミスディレクションであり暗喩でありヒントであり真相そのものですらあるのだ。
短編として読んだ時に見えていた構図が次々と逆転し、しかもそれが本編と緻密に絡み合っているのだからたまらない。書くだけでも面倒なのに、この構成でできる、ありとあらゆる手管を尽くしてくるのはさすが奇術師といったところ。
この超絶技巧はぜひ味わってほしい。絶版なのは実に惜しまれる。


08.6.5
評価:★★★ 6



泡坂妻夫の怖い話
   


~あらすじ~
職人・泡坂妻夫によるショートショート集。全31編。


~感想~
「怖い話」はほとんどないため「世にも奇妙な物語」と読み替えるべし。
さすがの職人芸で10枚足らずの小品に、逆転やトリックを仕込むのは見事な手際で、ほぼハズレなしではあるのだが、泡坂妻夫の傑作を両手両足の指に余るほど知っているこちらとしては、どうしても物足りない。
泡坂妻夫はやはり短編がおすすめである。


11.10.15
評価:★★☆ 5



からくり東海道
   


未作成



砂時計
   


~収録作品~
女紋

色合わせ
埋み火
三つ追い松葉
静かな男
六代目のねえさん
真紅のボウル
砂時計
鶴の三変


~感想~
ほぼ純文学短編集。にもかかわらず、この綺羅星のごとき傑作群はなんだ!? 泡坂妻夫って、本当にすごい。


01.5.2
評価:★★★★ 8



亜智一郎の恐慌
 


~収録作品~
雲見番拝命
補陀楽往生
地震時計
女方の胸
ばら印籠
薩摩の尼僧
大奥の曝頭


~感想~
ちょっとミステリ初心者に気を配りすぎたのか、トリックも論理も浅く薄い。
「亜」らしさを求めると肩すかしを食う。泡坂作品のご先祖様が次から次へと出てくるのは、好事家には楽しすぎる。


02.6.4
評価:★★ 4



鬼子母像
   


~収録作品~
鬼子母像
弟の首
鳴き砂
ライオン
他化自在天
指輪の首飾り
竹夫人
三郎菱
ジャガイモとストロー
色縫い
幕を下ろして
連理


~感想~
テーマはあえて上げるならば「時」。泡坂氏特有のねじれた論理で、時の流れを色濃く描いている。
一歩間違えば――というか冷静に考えればギャグとしか思えないような筋の話に、これだけの情緒をあふれさせてしまうのだから恐れ入る。
力のない作家が書けば、単なる出来の悪い童話くずれの、脱力一歩手前のオチの数々。
日常を舞台としながらも、奇妙にねじくれた作品ばかり。
短い話ばかりだが、長く印象に残ることだろう。


06.1.11
評価:★★☆ 5



泡亭の一夜
   


~感想~
作者の新作落語を多数収録。
江戸にいまひとつ疎い僕には、ピンと来ない話ばかり。しかし中入り後の落語や、ミステリ味の利いた人情話は十分楽しめる。たまにはこんなのもいい。


03.4.11
評価:★★★ 6



奇術探偵曾我佳城全集
 
   


2000年このミス1位、文春6位、本ミス1位、本格ミステリ大賞候補

~収録作品と感想~
※感想順はハードカバー版のものです

『天井のとらんぷ』
(ネタバレ→)
ショートという言葉を張るために流行を設定に組み入れた。実に巧み。

『シンブルの味』
逆転のトリックが見事。

『空中朝顔』
『蔭桔梗』や『比翼』の系列。短いなりに。

『白いハンカチーフ』
これは珍しい。トリックの張り方が奇抜。説得力はやや薄いが。

『ビルチューブ』
これはうまい! 伏線の数が群を抜く。

『消える銃弾』
チェスタトンばりのトリック。

『カップと玉』
トリックがやや言い訳がましいが、結末に味。

『石になった人形』
やや難。

『七羽の銀鳩』
突拍子もない結末に面食らった。

『剣の舞』
愛憎どろどろ。も、結末に救い。

『虚像実像』
これはアンフェアですよね?

『花火と銃声』
この長さに詰め込まれた驚異の重量感。逆転にしてあからさまな真相。傑作。

『ジグザグ』
序盤の軽妙なかけ合いがいい。

『だるまさんがころした』
トリックは味気ないが、物語が光る。

『ミダス王の奇跡』
これは伏線を張るだけのお話。ここから質が明らかにトーンダウンした。

『浮気な鍵』
ただの奇術譚。不満。

『真珠夫人』
対処がいまひとつ意味不明。

『とらんぷの歌』
謎の設定が不明瞭。惜しい。

『百魔術』
トリックが解りやすすぎ。

『おしゃべり鏡』
20年越しの伏線に脱帽。

『魔術城落成』
こんな結末は望んでいなかった。残念。


~総括~
短編集『花火と銃声』所収の7編(『石になった人形』~『だるまさんがころした』)を頂点として、以降の凋落ぶりは明らか。泡坂妻夫の真価はこの程度ではないはず。故に評価は辛くなる。


02.10.20
評価:★★★★ 8



比翼
   


~収録作品~
風神雷神
筆屋さん
胡蝶の舞
スペードの弾丸
赤いロープ
思いのまま
お村さんの友達
比翼
記念日
好敵手
花の別離


~感想~
読みやすいものの、全体として受ける印象は退屈。切れ味をいまひとつ欠く。
衰えたとは思いたくない。真価を!


02.6.12
評価:★★☆ 5



蚊取湖殺人事件
     


~収録作品~
雪の絵画教室
えへんの守
念力時計
蚊取湖殺人事件
銀の靴殺人事件
秘宝館の秘密
紋の神様


~感想~
密室あり奇術あり紋章上絵師ありと、泡坂妻夫の要素がぎっしり詰まった作品集。
ひさびさに全盛期の頃のキレが感じられる『雪の絵画教室』を筆頭に、円熟の筆の冴えがうなる。
たとえば『紋の神様』など、べつにどうということもない単純な筋なのだが、氏の手にかかると、この上なく味わい深い逸品へと仕上がってしまう。
ひさしくキレを欠いていると危ぶんでいただけに、このきらめく短編群は実にうれしい。
泡坂妻夫、いまだ健在。まさに枯淡の境地。


06.01.02
評価:★★★☆ 7



春のとなり
     


未作成



揚羽蝶
     


未作成



トリュフとトナカイ
     


未作成



泡坂妻夫引退公演
 


2012年このミス20位



天井のとらんぷ
-    


未作成



花火と銃声
-    


未作成



未作成
       


未作成



未作成
       


未作成



未作成
       


未作成

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