古泉 迦十


火蛾
   


~あらすじ~
12世紀。
イスラム教徒であり作家のファリードは聖者たちの伝記を編纂すべく、各地をめぐっていた。
アリーと呼ばれる聖者から、彼と同じ名を持つ“アリー”の伝説が語られたとき、
世界はゆっくりと、色と形を変えていく……。

2000年メフィスト賞、このミス14位、文春10位、本ミス2位、本格ミステリ大賞候補

~感想~
すごい。ここまで完璧な、完璧と思わせる物語はひさびさに見た。
前代未聞・空前絶後の結実にはただ慄然とするばかり。
難解な語句と知識がいつしか溶融し、文章の霧の中へと引きずり込まれていく。
この驚嘆すべき才能、第2の京極夏彦を見いだした感すらある。
がぜん注目の第2作はいかなる舞台でいかにして語られるのか、決して目を離せない。(読了当時記す)

※しかしあれから丸13年……。いまだ新作の音沙汰はなしw


02.7.18
評価:★★★★★ 10



崑崙奴
     


~あらすじ~
8世紀、戦乱から復興した長安で進士を目指す裴景は、伝説の崑崙奴めいた使用人から主で裴景の親友が失踪していると聞かされる。
折しも長安では腹を割かれ内蔵を奪われた無惨な死体がいくつも見つかっていた。

2025日本推理作家協会賞

~感想~
デビュー作「火蛾」で各種ランキングの上位を賑わせたものの第2作が出ないまま24年経った幻の作者がまさかのカムバック。
しかも本作で日本推理作家協会賞を射止めてしまい、読者の度肝を二重で抜いた。

24年待たせただけはある、とまでは言わないが豊富な資料を当たって丹念に描かれた重厚な世界観は特筆もので、ディテールの細かさに圧倒される。
しかし物語は至って地味で、語り手はちょっとびっくりするほど長所はおろか特徴もない凡人で魅力に欠ける。武侠小説的な要素も少しはあるがメインを張るほどではなく、トリックも推理も目を引くものはない。
その中で存在感を放つのが各所に漂う京極夏彦リスペクトだ。
誰もが真っ先に思い浮かべるのが「魍魎の匣」で、次に「鉄鼠の檻」と「塗仏の宴」。「陰摩羅鬼の瑕」と「絡新婦の理」も見え隠れし、ラストは「姑獲鳥の夏」で締める。特にアレは意識していないと言われたら絶対嘘だろう。
固有名詞の多さと歴史背景の特異さでやや読者は選ぶし、「火蛾」のように本格ミステリとしてあまり評価は得ないだろうが、歴史エンタメミステリの佳作ではある。


25.5.20
評価:★★★☆ 7



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