白井 智之


人間の顔は食べづらい
   


~あらすじ~
動物全般に感染するウィルスによって肉食が忌避された近未来。日本は食肉としてクローン人間の培養を認めた。
頭部は切り落として各家庭に配達されるはずが、「食人法」を制定させた政治家のもとに、生首が届けられた。

2014年横溝正史ミステリ大賞・候補

~感想~
世間的には元芸人が獲ったらしい大賞が話題になっているが、ミステリマニアの間では完全に逆で、最終候補から一発逆転で刊行されたこちらのほうが話題の的。
評判にたがわぬ年間ベスト級の問題作である。

まず設定だけ見ればここからユーモアミステリが始まりそうだが、あにはからんや大真面目に物語が展開してしまう。
登場人物も金髪の民間探偵、多重人格を気取る中二病患者、パンクをこよなく愛する風俗嬢と悪い意味で多士済々、作者は平成生まれの24歳と来れば手に取るのも躊躇するところだが、一皮むけば多重人格ならぬ多重解決と鋭い論理をあわせもったド本格ミステリなので安心して頂きたい。

カニバリズムを扱いながらも「食人」という厄介な題材はすでに日常へ溶け込んでおり、実はあまりその方面で深い議論はされず、一歩間違えばグロい描写も淡々と描かれるので、ほとんど気にならない。
話の肝となるのはやはり鋭い論理性で、生首配達事件について入れ替わり立ち替わり推理が行われるが、そのどれもが一定以上の説得力を持っており、特に終盤で披露される推理は、論理も伏線も見事にはまり、意味ありげなタイトルも絡んで膝を打たせておきながら……そこからさらに物語は二転三転し、まったく思いもよらない着地を決められて茫然自失となった。
いろいろと粗い点も散見されるものの、多重解決を用いた作品の中では、今まで読んだ中でも最も優れているかもしれない、とまで思ったり。(推理の枠組みはそのままに真相だけが次々と変遷する三津田信三を別とすればだが)

おそらくこんな尖った題材をわざわざ用いずとも傑作を書けそうな作者だが、次回作は何を出してくれるのか心の底から楽しみで仕方がない。続編とは行かなくても「食人法」の存在する設定は引き継ぎそうな気が。


14.11.21
評価:★★★★☆ 9



東京結合人間
   


~あらすじ~
人間が生殖を捨て男女で結合する世界。
結合人間の中には絶対に嘘をつけないオネストマンが時として生まれた。
彼らを集め孤島での生活を追う映画の撮影が企画されるが、そのさなかに殺人事件が起こる。
殺したのはオネストマンか、それとも。

2015年このミス16位、本ミス8位、2016年日本推理作家協会賞候補

~感想~
人肉食が肯定される世界でのデビュー作「人間の顔は食べづらい」も問題作として騒がれたが、それをもやすやすと飛び越えるさらに異形のミステリが爆誕。いやもう本当に作者は頭おかしい。
設定はもちろんのこと物語も完全に頭おかしく、話の区切りには超展開と呼ぶしかない事態が待ち受け、そのくせ提出される論理は恐ろしいほどに緻密で、一語一句もおろそかに出来ない膨大な伏線と手掛かりにあふれており、そこまでちゃんと読み込んでいない自分がなんだか申し訳なくなるほど。
終盤は論理の飛躍・逆転・爆発が繰り返され、それこそ結合人間の8本の手足に弄ばれ、もみくちゃにされているような心地で呆然とするばかり。
頭おかしい世界で頭おかしい物語が頭おかしい論理で信じられないほど緻密に解かれる、この頭おかしい作者にしか描き得ない、とんでもない本格ミステリである。


15.12.25
評価:★★★★ 8



おやすみ人面瘡
   


~あらすじ~
身体に意志を持つ人面瘡が現れる「人瘤病」がバイオテロにより感染を広げてから17年。
新たな感染者は減ったものの、人瘤病を患った「人間」への差別や、咳嗽反応による人間の起こす事件は増加していた。
そんななか、人間ヘルス「こぶとり姉さん」での火災事件をきっかけに、奇怪な死が連鎖する。

2016年このミス8位、本ミス5位

~感想~
デビュー作ではクローン人間の人肉食を、第二作では男女が生殖の代わりに結合を行う奇抜な設定ながら、ガッチガチの論理性と山のような伏線で紛うことなき本格ミステリに仕上げてくる作者の第三弾は、またも完全に頭おかしい。
単にいわゆる異世界ミステリとして書く上での要請に留まらない、独特過ぎる設定やそれに基づく世界観はSF界隈でも話題になっているそうだが、今回も人面瘡に「症状によっては意志を持ち会話もする」「脳機能が失われても代わりに生体機能を維持する」「咳に反応して暴れる」等のいかにもトリックに使えそうな設定を付加しながらも、その扱いは全く予測できない。
また帯の裏には「同じ手がかりから組み上げられる幾通りもの推理の先に、予想を超える真相が待つ。唯一無二の本格推理」と某絶版ミステリの伝説的トリックを思い出させるような惹句が書かれているが、その捌き方は某絶版とは全く異なり、伏線はそれこそ全ページにわたって張り巡らされている勢いで、解決編では多重解決とどんでん返しの連発に、驚き疲れるような感覚まで覚えた。

3作目も相変わらずの悪魔的な世界観と、驚異的な完成度を誇り、個人的には現時点での最高傑作である。


16.10.8
評価:★★★★☆ 9



少女を殺す100の方法
   


~あらすじ~
「死んでる? 誰が?」「みんなです」

名門女子中学校である日、教室内で20人の生徒が死体で発見される。
教頭のクサカベは学校に都合よく真相を偽装するため、警察よりも先に犯人を捕らえようと目論む。
「少女教室」他4編収録。

2018年本ミス8位

~感想~
白井智之はやっぱり頭おかしいな! 短編でも完全に頭おかしいな!
これまで長編3作を発表しいずれもエログロ(※グロ八割)なSF設定ながら、論理と推理に彩られた一級の本格ミステリをものしてきた作者による初の短編集。
期待通りに短編でも論理の冴えはキレッキレで、長編と同じくエログロ(※グロ九割)かつ説明不要のSF的な特殊設定を活かした、他に無い個性が輝く。

冒頭の「少女教室」からして「バトル・ロワイアル」か「悪の教典」かというクラス丸ごと皆殺し事件を、些細な手掛かりから論理的に紐解いて見せ、さらに何捻りも加えるという年間ベスト級の代物。

続く「少女ミキサー」は「まず少女がミキサーに放り込まれます」という動機も世界観も何もかも放棄した特殊設定にもほどがある舞台なのに、殺人事件がやはり論理的に解かれてしまう。

「「少女」殺人事件」はアンフェアの謗りを受けた作家が、フェアプレイに徹して(?)書いた作中作が描かれるパロディミステリ。

「少女ビデオ 公開版」はSF設定は無いものの登場人物が全員はっちゃけており、5編中最もエログロ(※グロ五割)に特化しつつも意外性のある物語でぐいぐい読ませる。

そして掉尾を飾る「少女が街に降ってくる」はタイトル通りの現象が起こる村で、この設定から考えられる限りの発想の飛躍と意外性を突き詰め、同時にデビュー作も想起させるとにかく無茶苦茶な一編で、まるで長編を圧縮したような濃密さ。

白井智之が短編を書いたらどうなるか? という疑問にほぼ100%期待通りに応えてみせた満点回答の一冊で、短編集ながら今年の本ミスランクインも十分に狙えるのではなかろうか。


18.3.7
評価:★★★★ 8



お前の彼女は二階で茹で死に
   


~あらすじ~
高級住宅地ミズミズ台で乳児が殺害される。
赤ん坊は自宅の巨大水槽内で全身をミズミミズに食い荒らされていた。
警察は、身体がミミズそっくりに変異する遺伝子疾患の青年ノエルにたどり着く。
彼がかつて起こした連続婦女暴行事件に隠された手掛かりとは?


~感想~
去年刊行した「少女を殺す100の方法」をタイトルだけで、しょうもない連中に「少女は殺される対象じゃありません!><」とか非難された作者が、それで考えを改めるはずもなく、よりエスカレートし全ページにわたり「お前は何を言ってるんだ」と突っ込まざるを得ない、猟奇かエログロかキ●ガイじみた発想で埋め尽くした本作をリリースしてくれた。
ぜひ「少女は搾取される立場じゃありません!><」とかほざいていた、くだらねえ連中に朗読していただきたいものである。これはお前たちが生み出したモンスターだぞ!!(※違います)

それはともかく内容は期待通りにいつも通りの、冗談みたいなエログロに彩られた特殊設定ながら、論理が冴え渡る生粋の本格ミステリで、しかも連作短編集の仕掛けと多重解決を施した、贅沢な逸品である。
冒頭の「ミミズ人間はタンクで共食い」からして、奇抜な設定と連作短編集としての趣向を説明しつつ、年間ベスト級のどんでん返しを仕掛けた傑作で、以降も毎回、別の特殊設定が登場しながら、ある趣向を凝らしつつ、あくまで本格ミステリとして解かれ続けてしまう。
その奇抜で突飛過ぎる趣向については、ぜひ読んで確認して欲しいので言及しないが、実にこの作者らしい、異常な発想でもう、うれしくなってくるほどだ。

作者のファンならば120%楽しめることは疑いなく、2018年末に発行されたが、よほどのことがなければ2019年度の本ミスでベスト3は確定ではなかろうか?


18.12.29
評価:★★★★ 8



そして誰も死ななかった
   


~あらすじ~
父の遺品の原稿を自分の作品として出版し、一作限りのミステリ作家となった牛男。
未開の部族を描いたその作品をなぞるような事件が現実に起こり、牛男の身にも奇怪な出来事が。
そしてミステリ作家を招いた孤島でのパーティーで、惨劇は起こった。


~感想~
気鋭の変態本格ミステリ作家(褒め言葉)にかの「そして誰もいなくなった」を魔改造させてしまった異形の作品。
冒頭にゲテモノ料理が出てくるぐらいで今回はおとなしめだと思われるかもしれないが、心配ご無用。いつも通りのエログロ祭りがすぐに始まる。
しかしエログロよりも目立つのは、問題編がわりと前半で幕を閉じ、そこから延々と続く解決編で、視覚的に嫌なグロ手掛かりばかり採り上げての多重推理で、真相が目まぐるしく変わっていく。
しかも
(とても探偵役が務まりそうもない面子なのになぜか全員が卓越した推理力を持っているので)全てが一定以上の説得力と、言われてみれば納得の明確な反論、そして見たことない異形の論理で組み立てられているのだからたまらない。
特に真相一歩手前の解決・トリックが超強烈で、たった一つの事象から全ての謎が解けてしまい、しかし真相ではないので丸っ切りの嘘なのだから恐ろしい。
最後に文字通り180度の転換から現れる真相も、前述のダミー解決にインパクトでは劣るが、残された伏線が綺麗に回収される手際の良さを見せてくれる。

個人的な好みで言えば昨年末に刊行された「お前の彼女は二階で茹で死に」に軍配を上げるが、どちらが本ミスで上に来ても全く不思議ではないし、結果がどうなるのか非常に楽しみである。


19.11.28
評価:★★★★ 8



名探偵のはらわた
   


~あらすじ~
名探偵・浦野灸の助手を務める原田亘は、彼女からヤクザの娘だと打ち明けられたのもつかの間、偶然にも彼女の故郷で起こった大量死事件の調査へ向かう。
そしてなんやかやあり現世に昭和史を彩る毒殺魔や三十人殺しの犯人たちが蘇ってしまう。

2020年このミス8位、本ミス3位

~感想~
今度の白井はグロくない! …グロいかグロくないかで言えばグロい描写もあるが、少女がミキサーに掛けられたり、空から降ってきては墜落死する過去作と比べれば全然グロくない。
SF界隈でも評判を呼んでいるという特殊設定も今回はややおとなしめで、しかしグロさとSFの裏で目立たなかった論理性と伏線の巧みさは全く変わらず健在であり、つまり本作は白井初心者向けと言えるかもしれない。

最大の見所は、多少ネタバレになってしまうが、カバーに書かれている範囲で言うと、昭和史に残る大事件をそのままモデルにした犯罪者と名探偵の対決である。あの有名犯罪者たちが現世で事件を起こし、それが本格ミステリとして解かれるのだ。しかもそれを書いているのは新進気鋭の変態(※褒め言葉)本格作家の白井智之。こんなの面白いに決まっているではないか。

尋常ではないグロさと変態(※褒め言葉)的・悪魔的発想ばかり目立ってきた作者だが、それらを多少薄めても本格ミステリ作家として一流であることを示し、しかもグロ耐性の低い初心者でも手に取りやすい一作である。わりと敬遠されていたが今回はこのミスランキングでも相当上位に行けるのではなかろうか。

…ところでこのカバーの女は誰なのだろうか?


20.9.11
評価:★★★★ 8



ミステリー・オーバードーズ
   


~あらすじ~
食べれば食べるほど頭の冴えるグルメ探偵アレックスが失踪。彼の助手を務めたがたもとを分かったティムは、過去に関わったマフィアを見かける……グルメ探偵が消えた
トラックにはねられた俺は口と肛門の役割が逆転した異世界に迷い込み、しかも殺人容疑を掛けられていた……げろがげり、げりがげろ
再開発地区に引っ越した梨沙子は、マンションの隣人が誘拐される現場を目撃。出産を控えた身重の身体で事件を追う……隣の部屋の女
フナムシ大食い大会に参加したアイドルフードファイターが対戦中に毒を盛られ死亡。容疑と命をかけられた司会者は真相を探る……ちびまんとジャンボ
亡き探偵の師匠をしのび別荘に集まった弟子の探偵達。だが別荘には死体が転がり、火山性ガスで閉じ込められる……ディティクティブ・オーバードーズ


~感想~
前作「名探偵のはらわた」は持ち味のグロ&SFがだいぶ控え目ながら、もう一つの持ち味であるキレッキレの論理で読ませる入門編のような一冊だったが、短編集の本作はグロもSFも論理も全開。全開どころか2冊分のグロの激しさとともに、変わらぬ論理の冴えを存分に見せつけてくれた。

「グルメ探偵が消えた」はどこかで見たような探偵と助手やその他大勢が登場し、一見ただの名探偵の失踪を描いたような話が、転がりもつれてとんでもない悪魔的発想の決着を迎える。
いやこの「一から斬新な処刑方法を考案しました」みたいなオチを悪魔的発想の一言で片付けていいのだろうか。

「げろがげり、げりがげろ」は「口と肛門の役割が逆転した異世界」という発想そのものがキ●ガイじみていて、それを考えつくこと自体がイカれてるのに、期待通りにその異世界でしかなし得ない事件・トリックをぶち込み、とどめの納得するしかないが予想だにしない結末もお見事。このトリックを成立させるために相当強引なことをやってはいるが、しっかり書いてる伏線で黙らせる力業なやり口も良い。
それにしてもトラックで轢かれさえすれば一発で異世界転生できるという共通認識は、この手のギャグめいた面もある作品には便利な手法である。

「隣の部屋の女」は冒頭から白井智之を読み慣れた人間にはそういうことだろうなあ…と思わせる描写からもちろんそういうことが起こるのみならず、大胆な仕掛けが施され、一読で真相を見抜くことはまずできないだろう。その分やり口が多少強引すぎて、無理やりなところもあるにはあるか。

「ちびまんとジャンボ」は白井智之ワールド全開なグロに次ぐグロに次ぐグロで、作中でも事件の概要を聞いただけで嘔吐する人物が登場するが、読者にいても全然不思議ではない壮絶なグロさ。なんせフナムシ大食い大会である。食うな。
そしてグロ事件のグロトリックをグロ手掛かりとグロ伏線からグロ真相を暴くというもうお腹いっぱいのグログロさ。これぞ白井智之!とまでは言わないが流石流石である。

ラス前にあんなのを持ってきておいて実質的に表題作の「ディティクティブ・オーバードーズ」では何を見せてくれたかというと、なんとグロさもSF要素もほとんど無い、オーソドックスな残された手記の謎を解く系の雪の山荘ミステリ。
もちろんオーソドックスなまま終わるわけがなく、目眩のするような、いや眩暈のするようなトンデモ手記が御登場し、読者を苦笑と混乱に陥れる。だが恐るべきことにこのむちゃくちゃな手記から論理的に真相が導き出されてしまうのだからたまらない。ちょっとした島田荘司「眩暈」くらいの趣向である。

こうして感想を書くために改めて振り返ってみるだに、5編ともせいぜい50ページしか無いことが信じられないほどの濃密さで、あのむちゃくちゃぐちゃぐちゃな内容が50ページぽっちしか無かったなんて絶対に説明がつかない。
新作を出すたびに「こいつ完全に頭おかしいな!!」を塗り替え続けていく作者だが、今回もマジで完全に頭おかしい、並ぶ者なき比類の短編集である。


21.5.29
評価:★★★★☆ 9



死体の汁を啜れ
   


~あらすじ~
世界屈指の殺人事件発生率を誇る牟黒市。
豚の頭をかぶった死体、頭と両手足を切断された死体、胃袋が破裂した死体。死体の中の死体…。
異常な殺人事件の数々にヤクザや悪徳刑事や悪徳占い師ら、ならず者たちが挑む。


~感想~
異常な死体にこだわった(?)連作短編集。
SF界隈ですら注目される飛び抜けた発想と、それに基づいた緻密なロジックに定評のある作者だが、本作はまず死体が異常なだけで特殊設定は無く、したがって異形の論理も今回は控えめ。
なぜそんな異常な死体が生まれたのかというロジックやさりげなく張られた伏線は相変わらず巧みだし、霞流一ですら長編一作で一件だけ扱った「死体で遊ぼ」が短編とはいえ8編も繰り出されるのは単純にすごいが、質は玉石混交で、絶えず誰も見たことないアイデアを出し続けてきた作者にしては、おとなしめのトリック・ロジックが多いのも確か。
とはいえグロトリックをグロ手掛かりからグロ論理で暴く個性は健在で、ファンなら十分に楽しめるだろう。
個人的には霞流一みたいな死体ゴラスイッチが素晴らしい「何もない死体」と、たった19ページながら、これとこれをこう組み合わせると不可能状況が出来上がる「屋上で溺れた死体」の発想の冴えが好みだった。


21.9.14
評価:★★★☆ 7



名探偵のいけにえ
     


~あらすじ~
カルト教団「人民教会」は迷走の挙げ句に集団自殺を遂げた。
教団の闇を暴くために潜入した名探偵は、奇蹟を信じる人々と対峙する。名探偵の推理は奇蹟に勝てるのか?

2022年本格ミステリ大賞、このミス2位、文春2位、本ミス1位、日本推理作家協会賞候補

~感想~
これはすごい。
(※プロットにややネタバレ注意)

よく似たタイトルの「名探偵のはらわた」と同様の趣向で、実在の「人民寺院事件」の経緯をなぞりつつ、そこに多重解決と特殊設定ミステリ、狂人の論理etcetcをぶち込んだとんでもない作品である。
これまでSF界隈でも注目されるぶっ飛んだ設定や、他の追随を許さないグロテスクな要素を活かしたグロトリックをグロ伏線からグロ推理で解いてきた作者だが、今回はSFもグロも控えめ。だが異形の論理は健在で、奇蹟を信じる人々にそれぞれの立場からの論理でそれぞれの解決を試みる。
この完成度がとんでもなく高く、どれもミステリ長編の真相にふさわしい論理のキレと伏線を完備しながら、その視点の変化に伴い明確に否定もされてしまうのだ。同じ手掛かりと同じ伏線を用いながら、全く別のいくつもの真相を導き出す超絶技巧である。
伏線はトリックと推理と物語のために無数に張り巡らされ、無駄な描写が1つも無いとすら言えるすさまじさで、最後まで伏せられていたあることも、残された謎と伏線をまとめて回収する手際の良さで、あまりにすごすぎてちょっと笑ってしまったほど。
SF・グロ控えめで広く読者を受け入れ、綺羅星の如く有名作家が集まった9月出版と条件は全てクリアされ、本ミス1位はまず間違いないのではなかろうか。


22.9.29
評価:★★★★★ 10



エレファントヘッド
     


~あらすじ~
精神科医の象山は家族を愛している。
だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを――。
やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。(※カバーから転載)

2023年このミス4位、文春4位、本ミス1位、本格ミステリ大賞候補

~感想~
未読の方の興を削がないためあらすじは転載した。
昨年3大ランキングで全て2位以上を射止めた「名探偵のいけにえ」がグロ控えめ、SF設定無しでどちらかといえば作者の初心者向けだとすれば、本作は玄人向けのグロととんでもないSF的設定が目白押し。
挨拶代わりのトリックから始まり、序盤で予想だにしないタイミングで殺人事件が起こり度肝を抜かれるが、まだまだ様子見の段階で、話が進むほどにグロはもちろん論理も全開に。SFに詳しくないので類例があるのかわからないが、思いつきそうで思いつかない絶妙な線をついた特殊設定が肝で、作者得意の多重推理・多重解決を成立させるためにまだまだこんな手段があったのかと仰天する設定を120%活かし、縦横無尽に論理と伏線とグロが張り巡らされる。
言われてみれば確かに書いてた山のような伏線を駆使して論理を紡いではそれを呆気なく手放し、また別の伏線を拾っては繋ぎ合わせる超絶技巧が満載。多くの読者をグロさでふるい落とすものの、論理はややこしくはあるがきちんと説明され納得が行くものばかり。
この設定では仕方がないことながら犯人はわりとどうでも良くなってしまうものの、白井ファンならば必ずや満足する期待通りに期待を上回る、グロ・論理・解決・特殊設定であふれ返った傑作である。

全くの余談ながら、最後に明かされる一番グロくて人でなしのトリックが、状況が明かされるや自分はすぐに見抜けてしまったのだが、どうかドン引きしないで欲しい。解けたということは解けるように書いた作者がすごいのであって、僕が人でなしなわけではないはずだ。


23.10.1
評価:★★★★☆ 9



ぼくは化け物きみは怪物
     


2024年このミス9位、文春6位、本ミス2位、本格ミステリ大賞候補

~あらすじと感想~
「最初の事件」
小学校のあるクラスを狙った連続殺人事件と、独裁者の秘密兵器と、動物の脱走。そのクラスには名探偵がいて…

全く繋がりが無さそうに見える逸話から、三題噺のように組み立てられた異形のミステリ。
これで長編を書く作家もいるだろうが惜しげもなく短編で、荒削りに素材のまま出されてしまうのだからすごい。
しかしその贅沢さにケチを付けてしまうが、短すぎて物足りなく感じてしまったのも事実である。


「大きな手の悪魔」
高次元人は地球を16のエリアに分割し、そこから無作為に選んだ人物の知能を測定し、基準以下ならぱ皆殺しにすると宣告。人類を救うために送り込まれた人物とは?

本書で最もイカれた一編。エリア内の人間を皆殺しにする銃の悪魔のようなオーバーテクノロジーを持つ高次元人にぶつけるのがよりによって角田美代子ってどういうことだよww
銃の悪魔 VS 角田美代子というこの世で白井智之しかしない発想を前にさりげない伏線が相変わらず上手いなんて感想なぞもはや無意味である。


「奈々子の中で死んだ男」
罠に陥れられたヤクザは最後の思い出に遊郭へ行くが、銭が足りず死んだ女をあてがわれ…。

発想のイカれ具合こそ過去最高レベルだが(あくまで白井智之にしては)ミステリとしてやや物足りない2編の後にお出しされるのがこの年間ベスト級の短編だからすごい。
遊郭を舞台にいつにも増してイカれたキャラを配しながら、この舞台でしか成し得ないトリック・伏線・推理・動機その他諸々が敷き詰められ、しかも最後には…と文句の付けようがない大傑作。


「モーティリアンの手首」
一攫千金のため異星生物モーティリアンの化石を掘り起こした3人組。死体の左腕は切断されしかも不自然に離れた場所に埋まっていた

アレを題材にして何をどうしたらこういう物語を思いつけるのか。SF界隈でも話題を呼んでいるという作者のSF的手腕が存分に発揮され、しかもガチの推理が繰り広げられるミステリでもある。この結末は一読忘れようがない。本書のベストに挙げる向きもあるだろう。


「天使と怪物」
世界の真実を謳う見世物小屋で起きた殺人事件とその犯人は、天使の子が残した手紙によって予言されていた。

そして掉尾を飾るのは作者お得意の待ってましたのアレである。アレをこんな手法でやってのけるの!?
白井長編のあれやこれやを思い出さずにはいられない技巧のミックスで、予言の謎をこんなふうに解いて見せるのだから恐ろしい。

2編目で数十億人のスコアを叩き出す銃の悪魔がいなくても死者数こそ過去最多クラスだが、グロは作者にしては控えめで、逆にSF要素は多め。
白井智之の短編に期待する我々を今年も裏切らない、イカれた発想揃いの素晴らしい短編集だった。


24.9.5
評価:★★★★ 8



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