十八の夏
~収録作品とあらすじ~ 土手で絵を描く小生意気な妖精のような紅美子。浪人生の信也は年上の彼女を慕い同じアパートに住み込む……十八の夏
妻に先立たれ男手一つで息子を育てる高志は、書店を営む明日香に心惹かれる。彼女には暗く悲しい過去があり……ささやかな奇跡
気まぐれで弟や家族を振り回す自由奔放な兄貴に意中の人ができたらしく……兄貴の純情
再会したかつての教え子は見違えるような美女に育ち、同時に危うさも内包していた……イノセント・デイズ
02年このミス6位、日本推理作家協会賞(短編)
~感想~
有栖川有栖「孤島パズル」でのミステリ史に残る言語道断のネタバレ解説で悪名を博し、読んだことないけど嫌いなミステリ作家ランキングを集計すればたぶん1位を争うに違いない氏だが、読んでびっくりすげえ良作だった。
全盛期の道尾秀介を思わせる、とまで言っては褒め過ぎだが、トリックを用いて人間とドラマを描くその手腕は並大抵のものではなく、特に表題作にして日本推理作家協会賞を射止めた「十八の夏」は、こちらにそこまでの心の準備ができていなかったというか、正直に言えば高をくくっていたというか、真相が明かされるや裏で進行していた本当の話に度肝を抜かれた。
「ささやかな奇跡」は残念ながらトリックが見え見えで、自然それをささやかとは言え奇跡と呼ぶのはあまりに大げさに感じてしまい今ひとつ。
「兄貴の純情」も大体の流れは見えていたが、さる伏線が非常に面白いもので、ここで使い捨てるのはもったいなくも感じた。
そしてラストの「イノセント・デイズ」だが、ここまで心温まるストーリーが続いてきたのに急転直下で異常なほどドロドロした家族関係に、昼ドラのようなヤンデレヒロイン、ある資産家の遺産をめぐる連続殺人事件みたいな濃厚過ぎる設定を90ページに詰め込み、しかし終わってみれば救いのある良い話になっているという、目の回るような展開に驚かされた。
年間ベスト級の表題作は別格として、トリックや伏線は物語を描かれるために張られているが、その物語自体が素晴らしく読ませるもので、ほとんど無名に近い(と思う)作者だが、これだけの実力があるならばもっと広く知られるべきだし、他の作品も読まなくてはなるまいと強く思った。
「孤島パズル」で激昂したミステリファンにこそ、ぜひ読んでもらいたい良作揃いの短編集である。
※ただしあのネタバレは絶対に許さない。絶対にだ。
16.6.11 評価:★★★★ 8
|