米澤 穂信


氷菓
   


~あらすじ~
何事にも積極的に関わらない省エネ高校生・折木奉太郎。しかし姉の命令で入部させられた古典部で、次から次へとささやかな謎が彼に襲い(?)かかる。


~感想~
鬼太郎ブックカバー目当てで購入した二冊目。しかしさすがは米澤穂信、ただでさえ安い値段をさらにお得に感じさせる、贅沢な一冊でした。
連作短編集のような形式ながら、前半部分の数々の謎は、語り手・折木の推理のキレを見せるための序奏パートといったところ。
クライマックスでは四者四様の推理の果てに、パッチワークのようにそれぞれの手がかりをつなぎ合わせ、一つの真相を導き出す。
しかしそれはたった一言で突き崩され、裏に隠された真実が明るみに出て、謎めいたタイトルの(そして文集の名の)意味が知らされるや、単なる日常の謎ミステリに留まらない、青春小説としての姿も浮かび上がる。とどめに最後の最後に現れる、あの人物の意図するところも、またいい。
中編程度の分量で一気に読めるが、ページ数以上の満足を得られること請け合い。これぞまさしく夏の一冊、でしょう。


07.8.7
評価:★★★☆ 7



愚者のエンドロール
   


~あらすじ~
「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展される自主映画を観て千反田えるは呟いた。
その映画のラストでは、廃屋の密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか? その方法は? だが、謎は明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。
結末が気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出す。


~感想~
裏表紙にはほろ苦青春ミステリと冠されているが、終わってみればどこにも悪意のない、善意だけの青春群像。
いわゆる『毒入りチョコレート事件』手法の、推理の連打と否定の連打。しかし探偵は唯一無二の回答を導き出した――と見せかけて、さまざまな視点から提出される否定の論証が楽しい。
短いながらに詰め込まれた本格魂。21世紀、本格魂はライトノベルに宿るのか? これは秀作。


07.3.28
評価:★★★☆ 7



さよなら妖精
   


~あらすじ~
1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。
ユーゴスラヴィアからやって来た少女、マーヤ。「哲学的な意味はありますか?」彼女と過ごす、謎に満ちた日常。
そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに……?


~感想~
ボーイミーツガールの傑作。
小市民ミステリシリーズで一世を風靡した作者の出世作、にしてはミステリ味に乏しいがそんなことは問題にならない。
舞台が約20年前、そしてユーゴのその後を知っているだけに、明るくみずみずしく描かれているはずの日常に、そこはかとなく感傷と悲劇のにおいがたちこめる。
どこにでもいる少女のようでいて、なにげない平和な日本の日常に溶け込めないマーヤ。それは彼女の日々に戦争の影が落ちていたことをうかがわせる。
語り手の守屋もまた、普通の少年でありながら、普通の日常に溶け込めずにいる自分を自覚していて――などと内容に触れてはもったいない。
興味があればぜひ読んでもらいたい。特に中高生には激しくおすすめ。人生観が変わりかねない一冊となることだろう。
ただ惜しむらくは――ミステリじゃなくてよかったんじゃない?


08.10.23
評価:★★★★ 8



春期限定いちごタルト事件
     


~あらすじ~
恋愛関係にも依存関係にもないが「小市民」を目指すため互恵関係となった小鳩くんと小山内さん。
しかし夢をあざ笑うように、今日もささやかな、しかし不思議な謎が彼らの周りに浮かび上がる。

~収録作品~
羊の着ぐるみ
Your eyes only
おいしいココアの溶き方
はらふくるるわざ
狐狼の心


~感想~
次作『夏季限定トロピカルパフェ事件』から『本格ミステリ06』に収録された「シェイク・ハーフ」がいまいち口に合わないため敬遠していたが、今年の「このミス」で10位に入ったのを機に一読。……いや、恐れ入った。多くのミステリ作家が忘れかけ、あるいは失っている本格魂を、ライトノベル出身の米澤穂信は脈々と受け継いでいた。
さすがライトノベル畑というべきか、イキイキと描かれた人物たちと会話の数々は、読み進めるだけでも非常に楽しい。それでいてさりげなく伏線を忍ばせているのだからお見事。ライトノベル読みもミステリ読みも、小説読みなら残らず満足させるのではなかろうか。
道尾秀介、辻村深月、そして米澤穂信。21世紀のミステリ界は彼らが担う。


06.12.12
評価:★★★☆ 7



クドリャフカの順番
   


~あらすじ~
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部では大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。
部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲……。
この事件を解決して古典部の知名度を上げるべく、省エネ主義者の奉太郎は事件の謎に挑むはめに。古典部シリーズ第3弾。


~感想~
米澤ミステリらしい変……ひねくれた人物たちが織り成す、一風変わった青春模様が楽しい。
「刷りすぎた冊子」をめぐる販売戦略と「暗躍する謎の怪盗」という魅力的な二本の主線を据えながら、本筋を離れたクイズ大会やお料理対決などでさすがはラノベ畑の軽妙な筆が冴え、見どころが数多い。
折木や千反田だけではなく、シリーズ初となる里志や摩耶花の視点も交え、ひんぱんに入れ替わることで、お祭りらしいにぎやかさが演出されているのもお見事。
あとがきで「主役は文化祭そのもの」と言うとおり、文化祭というレベルを通り越して、どこかのテーマパークに紛れ込んだようなお祭り騒ぎがとにかく楽しい。事件なんか起きなくたってかまわないくらいに。
……でもこんなに全校あげて盛り上がる文化祭なんてこの世に存在するだろか?


10.12.27
評価:★★★☆ 7



犬はどこだ
   


~あらすじ~
開いたばかりの探偵事務所に舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして──犬捜し専門(希望)25歳の私立探偵、最初の事件。


~感想~
米澤穂信が正面から探偵を描いた作品。
軽妙な描写と魅力あふれるキャラはさすがラノベ出身。軽妙なパートを本当に軽妙に描ける作家はそうはいない。
一見なんのつながりもない二つの依頼が微妙に交錯し、たがいがたがいの伏線として機能し始め、期待通りにつながっていく終盤までの盛り上げ方が見事。
……が、結末がちょっといただけない。導かれた真相は面白いのに、着地した地点がそれはちょっとと戸惑うところ。このあたり傑作になりそこねた「インシテミル」と同じ、ベタを嫌った(?)余計なねじれを感じてしまう。だがこのねじれこそが、作者の魅力ともとれるのだから始末に悪い。
ともあれどうやらシリーズ化するようなので、次回が楽しみである。


09.2.18
評価:★★★☆ 7



夏期限定トロピカルパフェ事件
     


~あらすじ~
「小山内スイーツコレクション」を手に、今日も今日とて甘い物めぐりに乗り出す小鳩くんと小山内さん。
しかし彼らの夢「小市民の星」をつかむ日を一気に遠ざけるような大事件が……。


~感想~
これぞ連作短編集!と快哉を叫びたくなる、いかにも連作らしい連作が現れた。
短編ミステリとして見られるのは2本きり。しかしここまで周到に仕掛けを張りめぐらされては文句は言えない。
終章を前にして、小山内さんというキャラを考え詰めれば真相に見当が付いてしまうのは惜しいが、トリックが解ったと騒ぎ立てるのは野暮というもの。これだけの本格魂を見せつけられたのだから黙って讃えよう。
それにしても、このシリーズは今後どうやって展開するのだろうか。まるっきり一ファンの視点になってしまうが『秋季限定マロングラッセ事件』が非常に待ち遠しい。
ちなみに今作、前作『春季限定いちごタルト事件』のネタバレを多数含むため、必ず春夏秋冬の順にお読みください。スイーツは季節が命。


06.12.13
評価:★★★ 6



ボトルネック
   


~あらすじ~
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。
ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいた。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。
ぼくが目覚めたこの世界では、ぼくは生まれず、流産だったはずの姉が生まれていた。


~感想~
これは痛い。実に痛い。
世間では「青春感動小説」としてもてはやされているらしいが、青春はともかくとして感動する場面はどこにあるのだろうか。
それはともかくSF絡みの非常に僕好みの一作で、なんでも作者は学生時代に構想を得たものの、まだ満足に描き切る力量がないと悟り、充分な経験を積んでから形にしたのだという。
長年あたためていただけはあり、決して長くない文量に無駄なく伏線や心情がちりばめられ、一息に読み終えることができる。

歴史好きなら誰しも「もしこの時代に●●が生まれていなかったら」どうなっていたか想像したことはあるだろう。
この作品で●●に当てはまるのは「自分」であり、しかも代わりに生まれていたのは「自分よりも上位互換の能力を持つ姉」なのだ。
これはもう恐ろしい結果にしかならないことは言うまでもない。
読者と語り手を突き放す結末こそ好みではないが、それでもなお米澤穂信の代表作のひとつに数え上げられるだろう。
多くの代表作を持つ、あの米澤穂信のである。まずはお試しあれ。


11.10.7
評価:★★★☆ 7



インシテミル
   


~あらすじ~
時給11万2千円という怪しい求人に、それぞれ思惑をもった12人が集まった。
仕事の内容は、12人の「暗鬼館」での7日間を、一日中観察されるというもの。
館の中には、鍵のかからない12の客室・娯楽室等の他に、監獄・霊安室といった部屋があり、12の客室には、それぞれ1つずつ、凶器が置かれている。
館の観察者は、彼らにいったいなにをさせたいのか?


~感想~
これだけの大掛かりな舞台だけに大型のトリックを期待してしまったのが間違い。
これはタイトル通りに本格ミステリに「淫してみた」作品。本格ガジェット盛りだくさんであることを逆手に取り、想像と期待の斜め上を行き煙に巻くような仕掛けを楽しむべき。これが帯に書かれたとおりの「私たちのミステリー、私たちの時代」とは思えないが。
難点というか難癖つけると、舞台といい設定といい『極限推理コロシアム』『晩餐は「檻」のなかで』とかぶりまくっている。しかし完成度はその2作を全く問題視しないレベルで、むしろ今作こそが極限で推理なコロシアムぶりを楽しませてくれる、強化版極コロといったところ。
それにしても米澤穂信がこんなにも本格ミステリというものに造詣が深く、愛をささげているとは思わなんだ。


07.11.15
評価:★★★☆ 7



遠まわりする雛
   


未作成



儚い羊たちの祝宴
   


~収録作品~
身内に不幸がありまして
北の館の罪人
山荘秘聞
玉野五十鈴の誉れ
儚い羊たちの晩餐


~感想~
「ラスト一行の衝撃にこだわり抜いた連作」と聞くとかの異色作、事件の真相を一枚の絵で示してみせた蘇部健一の『動かぬ証拠』を思い出すが、さすがに一行で事件をひっくり返したり、真相を明らかにするのは無理というもの。「ラスト一行でオチをつける」が正しい表現であり、誇大広告とは言わないが、期待をあおりすぎて失敗としか思えない。
連作ではないが舞台を同じくする短編集なのだが、語り手の口調や登場する人物の造型にほとんど違いがなく、単調さを招いているのもマイナス。
ガチガチの本格ミステリかと思いきや、とにかくブラックな風格なのも肩透かしだし、書き下ろしのラスト短編のオチが、途中の一編のネタと丸かぶりしていて、食傷ぎみになってしまうのも痛い。
どうもこれは作者のせいではなく、ジャケ帯の的外れなあおり文句といい、企画自体の計算ミスではないだろうかと思いたくなる。
変なあおりをつけず、舞台を統一せずにものしていれば、だいぶ印象も変わったのではなかろうか。


09.12.7
評価:★★☆ 5



秋期限定栗きんとん事件
   


~あらすじ~
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。
学校中を二人でめぐった文化祭。夜風が寒かったクリスマス。お正月にはそろって初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るなんて。
それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを始めてしまい……。


~感想~
こ れ は 酷 い。
と言っても作品として酷いのではなく、シリーズキャラを押しのけ、新主人公のように上巻からメインを張るキャラへの扱いが、マジ容赦ねえ。
上巻では小山内さんも小鳩くんも後方に下がり、事態を見守っているのだが、下巻にいたって一変。超上から目線で新主人公(?)をこき下ろし、終章にいたっては完全シカトで影すら現させず、エンドクレジットが流れるあたりでは単なる脇役に追いやる始末。
そういえばあらすじも新主人公(?)は超スルーだし。
あれ、この流れはどこかで見覚えが……と思ったら「ガンダムSEED DESTINY」だこれ。
分量のわりにトリックも事件も小粒で、すこし冗長なきらいはあるが、小市民シリーズによる種死展開だけでも一読の価値はアリ。


上巻09.3.18
下巻09.3.20
評価:★★★☆ 7



追想五断章
   


~あらすじ~
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬にひかれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。
調査をつづけるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。22年前のその夜はたしてなにがあったのか?


~感想~
ミステリとしては短いながらによくできた小品なのだが、そんなことよりも小説としての登場人物へのあまりの突き放し方に不快さを感じてしまった。
↓以下ネタバレ↓
リドルストーリーを探す物語だけに、この話の結末もリドルストーリーだろうと当たりをつけていたので、「その後」を全く描かない幕の閉じ方は気にならなかったのだが、それにしてもあまりにも登場人物への、平凡な市井の人物たちに向ける目線が冷たすぎはしまいか。
彼らは大きな間違いを犯したわけではない。大学を辞めることも、田舎に帰ることも、ちまちま古書店をつづけることも、過去を引きずることも、なんらの悪ではないのだ。
だが作者は冷めた視線で彼らを突き放し、「その後」どうなったのか、彼らの行く先に光や影はおろか、なにも暗示しようとすらしない。完全に無である。
おそらく意図的にそうしたのであろうが、まるで平凡な人生を送ることの、それ自体が悪であり負け犬であるかのような突き放し方は、読んでいて終始不快だった。


まあ本格ミステリというジャンルに、そんな難癖をつけること自体が愚かなのだが、しかし単に「黒米澤」と片付けてしまうには、なんとも後味の悪い物語であった。


09.9.21
評価:★★☆ 5



ふたりの距離の概算
   


未作成



折れた竜骨
     


~あらすじ~
北海に浮かぶソロン諸島。その領主の娘・アミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、彼に従う少年ニコラに出会う。
ファルクはアミーナの父に、あなたは暗殺騎士に命を狙われている、と告げた。
自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、“走狗”候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、そして、甦りし「呪われたデーン人」が襲来し……。
魔術や呪いが跋扈する世界で、論理の刃は真相にたどり着くことができるのか?


~感想~
作者曰く西澤保彦のSFミステリや山口雅也『生ける屍の死』を念頭において描かれた、剣と魔法が横溢する中世ファンタジーの世界に本格ミステリを溶けこませた特殊設定もの。
超傑作漫画『うしおととら』や『からくりサーカス』で知られる藤田和日郎を誰かが「漫画力が高い」と評していたが、それを拝借すれば米澤穂信は実に「小説力が高い」作家である。
アマチュア時代に描いていたとはいえ、中世ファンタジーの世界観、文体、人物像を見事に表出しながら、一歩間違えればなんでもありに陥ってしまう魔法にうまいこと制限を設け、ド本格な論理で貫く。これはとんでもない離れ業である。
捜査や合戦のさなかに豊富な伏線をばらまき、本格ミステリらしい一堂に会した解決編で、それを回収しつつ一人また一人と消去法で真犯人を追い詰め、最後の最後には――と、ファンタジーと本格をこれ以上ないほどの高水準で融合してみせた、大変な労作であり、かつてない傑作である。
なにぶんファンタジーを読みなれないもので、ずいぶんと読了するのに骨が折れたが、今年のこのミスや本ミスの1位になっても、全く驚かない。
肝心の(?)ファンタジー興趣あふれる合戦があまり描かれないのは拍子抜けも、それでも年度代表作と呼ぶにふさわしい本格物、でしょう。


11.12.9
評価:★★★★☆ 9



リカーシブル
     


~あらすじ~
父の蒸発によりママがかつて暮らしていた田舎町に越してきた中学1年生のハルカ。
同級生の在原リンカの助けもありクラスに溶け込むが、7歳のサトルがまるで未来を予知するような言葉を放ち出す。
町にはタマヨリヒメという伝承があり、ヒメは未来予知の力を持っており……。

13年このミス7位、本ミス10位


~感想~
色々と共通点の多い「ボトルネック」に続き、SF風の仕掛けを施した良作。
未来予知という到底、地に足の着いた結末を迎えそうもない題材を軸に、不穏な空気をはらみつつも語り手のハルカが年齢離れして老成しているため物語は淡々と進む。
中1にしては頭良すぎるし擦れすぎているハルカは高1の設定でも別に良かったのではないかと思うが、怪しげな因習が残り、ほとんど淫祠邪教みたいなある「教義」を崇める町人達の様子も何かと物騒で、雰囲気はホラーさながら。
恩田陸なら終盤に投げっ放すだろう説明の付かない事象が次々と起こるのだが、そこは米澤穂信。終わってみれば完膚なきまでにミステリでありつつも、怪異がそこに確かに残るという三津田信三か初期の京極夏彦かという絶妙な着地を見せてくれた。
ミステリとしてのみならず、ペルソナシリーズの登場人物なら確実にペルソナ能力に目覚めてそうな不幸に見舞われまくるハルカの成長譚としても最後まで牽引する物語の力があり、「ボトルネック」と似通いながらも対極をなすようなラストシーンも素晴らしい。
翌年の「満願」、そして2年後の「王とサーカス」で連続このミス1位獲得に至る飛躍の気配を感じさせる作品である。


17.2.25
評価:★★★★ 8



満願
     


~収録作品とあらすじ~
夜警
夫婦喧嘩の仲裁で、なぜ部下は殺されたのか。
いつかこうなるのではないかと、殉職させたくないと思っていたのになぜ。
上司の柳岡は遺族に話を聞き、意外な真相に気づく。

死人宿
山深い宿で失踪した恋人は働いていた。
そこは「死人宿」と呼ばれる自殺志願者の集う宿で、脱衣所の籠から遺書らしき手紙が見つかる。

柘榴
女たらしの夫との離婚を決意した妻。
だが二人の娘は母とは別の思惑を抱き、ある計画を実行に移す。

万灯
天然ガス採掘のためバングラデシュに赴いた男。
だが交渉は難航し、やがて二人の男の死に関わることになる。
男に裁きをもたらしたものとは?

関守
次々と車が転落死する都市伝説を求め、峠の茶屋を訪れたライター。
一人で店を営む老婆は犠牲者たち全員と面識があった。老婆が語り、そして都市伝説が始まる。

満願
弁護士の私が学生時代、下宿していた畳屋の妻が借金を苦に人を殺した。
彼女はなぜ減刑を拒み服役を受け入れたのか。


~感想~
以前「米澤穂信は小説力が高い」と評したように器用な作家だとは思っていた。しかしこのミス等にランクインした「追想五断章」や「儚い羊たちの祝宴」などの短編集は平均点は高いものの、個人的に突き抜けたものは感じなかった。
長編の「折れた竜骨」は年間ベストにも推した傑作だが、異世界本格というジャンルゆえに壁を乗り越えたと理由をつけていた。
だがこの「満願」の素晴らしさはどうだ。6編いずれも泡坂妻夫や連城三紀彦と並べても全くひけをとらない。それどころか彼らよりも一層「本格ミステリ」であることを意識した筆致で、描写の一つ一つに丹念に伏線を織り込み、謎と真相と解決を一本の線で貫き、しかも一編の物語としてもまるで長編ばりの濃密さの高水準で成立させている。この「満願」をもって米澤穂信は大化けしたと断言して構うまい。

各編の感想は個別に書かないが、いずれ劣らぬ極上の傑作揃い。なんといっても伏線大好き人間としては、さりげなくも周到に張られた豊富な伏線に恐れ入った。
また舞台設定や語り手の立場も様々で、結末もそれぞれ皮肉なものからホラーそのものなものまで違った味わいで、ラノベを皮切りにミステリ、SF、ファンタジーとあらゆるジャンルを網羅してきた作者の懐の深さを感じさせる。
一編ベストを挙げるなら(とベストを挙げるのにもさんざん迷わされたが)「関守」が最も好みで終盤、人の良い老婆のやわらかな語り口のそこかしこに張りめぐらされた伏線が怒涛の勢いで連鎖爆発していき、最後には怪異として全てを取り込むという出色の作品。ホラーもここまで描けるとは!

6編そろってハズレ無しどころか、6編そろって年間ベスト級。これは10点満点を付けざるをえない。


14.11.28
評価:★★★★★ 10



王とサーカス
     


~あらすじ~
フリーライターの太刀洗万智は、滞在していたネパールで王族間で起こった殺人事件に遭遇。
王宮内にいた軍人に取材を申し込むが「記事はサーカスの演し物に過ぎない」と指摘され懊悩する。
さらに王宮外でも殺人が発生し……。

2015年このミス1位、文春1位、本ミス3位

~感想~
まず本作は「さよなら妖精」から数年後が舞台であり、作者はあとがきで本作から読んでも問題ないと記すが、「さよなら妖精」の結末が何度もほのめかされているので、個人的には先に「さよなら妖精」を読んでおくことを勧めたい。
「さよなら妖精」自体が多感な中高生なら人生観が変わりかねないほどの傑作なので、未読ならぜひ。
また続編の「真実の10メートル手前」ではもう完膚なきまでにネタバレされているので、そもそも本作に限らずシリーズ作品は刊行順に読むべきである。

本作では2001年に実際に起こったナラヤンヒティ王宮事件がそのまま題材に採られ、物語とも密接に関連する。
米澤穂信は今や国民的作家の地位に着々と近づきつつあるが、鬱小説ランキングで必ず上位に顔を出す「ボトルネック」を筆頭になかなかのトラウマメーカーでもある。
本作でもその容赦ない刃は登場人物の太刀洗万智だけではなく、読者にも突きつけられ、苦い後味を残すだろう。だがそれだけでは終わらず、最後にはきちんと希望や救いめいたものも感じられ、トラウマだけでは終わらなかった。
単純にミステリとして、物語としての出来が抜群に良く、しかも傑作「さよなら妖精」の続編として書かれただけはある多くのテーマ性を持った、ネクスト国民的作家の数多い代表作の一つになるだろう。


23.4.17
評価:★★★☆ 7



真実の10メートル手前
       


未作成



いまさら翼といわれても
       


未作成



本と鍵の季節
       


未作成



Iの悲劇
     


~あらすじ~
住民全員が去った限界集落に移住者を迎え入れるプロジェクトを任された通称「甦り課」。
出世志向の公務員だが職務に忠実な万願寺は、移住者に寄り添い生活を支える。しかし住民たちの間にはトラブルが相次ぎ…。

2019年このミス11位、文春4位

~感想~
作者お得意のほろ苦連作短編集。と一口で言ってしまうのは乱暴だが、そう評するのが一番早い。
描写も筆致もいつもながら丁寧で過不足なく最低限の質は保っているが、しかしそれ以上のものはない。真相は隠す気もなさそうなほど見破りやすく、個々の短編はかなり弱い。特に2話目は読者を、というか人間を舐めてるのかというほどアホらしすぎる真相で、東川篤哉のユーモアミステリならともかく大真面目な作品でこれはいただけない。気づけよ。
途中で短編ミステリですらない閑話休題がしれっと混ざってるのも好みではないし森博嗣で見たトリックもある始末だが、ラストシーンの寂寥感は素晴らしかったので6点とした。
しかし最近読み始めた宮部みゆき「ぼんくら」が今のところほぼ同じプロットで19年先行しており、それを読み終わり次第、改めて評価を下したい所存である。(※関係ありませんでした)


24.4.29
評価:★★★ 6



巴里マカロンの謎
     


~収録作品とあらすじ~
セットで注文できるマカロンは3つまで。しかし小山内さんの皿には4つのマカロンが乗っていた…表題作
文化祭で騒動に巻き込まれた小山内さん。彼女が持っていたはずのCDは消えてしまい…紐育チーズケーキの謎
マスタード入りのロシアンルーレットあげぱんを食べた4人。しかし誰も当たりを引いたと名乗り出ず小鳩くんに調査が依頼される…伯林あげぱんの謎
小山内さんを慕う後輩が無実の罪で停学にさせられた。濡れ衣を晴らすため二人は動く…花府シュークリームの謎


~感想~
小市民シリーズ11年ぶりの新作。番外編。
番外編とあってか謎はどれも小粒で、出題と同時に正解か、悪くても真相に至るとっかかりが即座にわかってしまう甘口仕様。
そのあたりは昨年このミスにランクインした青崎有吾「早朝始発の殺風景」と同じだが(※殺風景ほど簡単ではない)小市民シリーズの小山内さんと小鳩くんといえば前作「秋期限定栗きんとん事件」のように本当の小市民より卓越した頭脳の持ち主で、思い上がった小市民を上から目線で叩き潰す存在であり(※偏見)、そんな彼等が読者より後に真相にたどり着くどころか、あからさまな伏線に全く気付かず「そこにあるだろそこに」とじれったく思われては完全にキャラ崩壊であり、シリーズ作品として成立しなくなっているきらいがある。
というか近年の倉知淳のように、たったこれだけの真相にたどり着くために余りにもページ数を掛けすぎていて、半分の文量で書けたはずだと思えてならない。
特に顕著なのがラスト2編で、これとそれが揃った時点でほとんどの読者には真相が見えるのに、なぜ小鳩くんと小山内さんだけがピンと来ないのか不思議でならない。

一方で本作中で白眉なのもその2編であり、「伯林あげぱんの謎」は真相丸わかりながら全ての伏線が収まるべきところに収まる綺麗さが、「花府シュークリームの謎」は例に上げた「早朝始発の殺風景」と同じくこの上なく素晴らしいエピローグが、読後感を満足行くものに仕上げている。
なにはともあれ11年ぶりにシリーズ再開したことは喜ばしく、次の冬期限定では謎や真相の強度も上げてくれれば言うことはない。


20.2.6
評価:★★★ 6



黒牢城
     


~あらすじ~
摂津国を治める荒木村重は突如として織田信長に反旗を翻し、説得に来た黒田官兵衛を幽閉すると有岡城に籠城した。
信長の包囲網が迫る中、城内では不審な事件が次々と起こり、対処に困った村重は、官兵衛に推理を求める。

2021年直木賞・本格ミステリ大賞・このミス1位・文春1位・本ミス1位


~感想~
著者初の歴史小説で五冠を制した話題作。飛び抜けた対抗馬の無い年ではあったがそれでもお見事。
まず戦国ファンなら誰でも知ってる黒田官兵衛の幽閉を安楽椅子探偵に仕立て上げてしまったアイデアが秀逸過ぎる。思いつきそうで誰もやらなかった。
短編一つ一つのトリックを取り出して眺めてみれば極めて地味で、これで五冠を制したのはやはり相手に恵まれた感はどうしてもあるのだが、それより歴史小説として見るにつけ、作者の恐ろしいほどの生真面目さが如実に出ているのが際立つ。
ほぼ史実ベースの物語で、登場人物のおそらく全員が実在。使われる用語は並の歴史小説よりも厳密かつ正確に用いられ、むしろこれほど生真面目にちゃんと書かれた歴史小説を他に知らないレベル。恐ろしいことに雑賀下針も千代保も無辺すらも(真偽はともかく)存在していて、しかも作中での描かれ方がほぼ史実ベース。このへん並の作家なら安易にオリキャラを出すところを生真面目すぎる作者はなんと必要なキャラを史実から頑張って探してきてしまう。偉い。すごい。
国民的作家の座に着いたか王手を掛けた米澤穂信と自分ごときを並べて語るのは恐れ多いが、歴史小説の大きな不満として安易にオリキャラを出すことが大嫌いだ。だって探せばいる。絶対いる。三国志で5千人、戦国なら数万人が実在していて、書きたい物語に必要な人間は絶対いる。歴史物にオリキャラは必要ない。それを米澤穂信はわかっているのだ。

本ミス1位を取ってるせいで「本ミス1位取るなら動機はこれで黒幕こいつだろうな」が当たってしまったのと、ラストシーンが戦国ファンならほぼほぼ知ってる事実なのが惜しかったが、文庫版で今さら読んだほうが悪いので些細な瑕疵である。
ただ「黒牢城」の黒田官兵衛と史実で関ヶ原後に長政を叱った官兵衛はたぶん同一線上に存在しないw
しないんだけどこの作者の頭の中にはたぶんそれを繋げる構想がきちんとあるし、いずれ官兵衛主人公でまた書いてくるかもしれないとさえ思えてしまう。
個人的にはミステリとしてそこまで評価はしないものの、歴史小説家としてのあまりにも真摯な姿勢は手放しで称賛したい。ぜひまた書いてくれ。


24.6.22
評価:★★★☆ 7



栞と噓の季節
       


未作成



可燃物
     


~あらすじ~
県警捜査一課の警部の葛は慎重居士で、決して臆断をせず結論を急がない。
凶器なき殺人、交通事故、バラバラ殺人、ゴミ捨て場への放火、立て籠もり事件。
大小様々な事件に葛は平等に頭を悩ませ、裏の真相を暴き出す。

2023年このミス1位、文春1位、本ミス2位

~感想~
今や国民的作家になったか王手を掛けた作者の新シリーズ(?)短編集。
端正でそつない印象を受ける切れ味鋭い短編揃いで、孤立を恐れず証拠と閃きを重視し結論を急がない葛は典型的な名探偵タイプ。
葛の捜査にちなみ個々の短編にも読者が安易に飛びつきたくなる結論が見え隠れしており、特に「崖の下」の○○○や「命の恩」の○は非常にわかりやすい。
読者への挑戦こそないものの、葛と同様に頭を悩ませればたどり着ける可能性のあるちょうどいい難易度である。

一方で国民的作家の新作で各種ランキングを総なめ!と聞いてから読むと拍子抜けするのも確か。というかこの程度の作品ならば今の作者ならば鼻歌交じりにいくらでも量産できるはずで、問題はこれにあっさり1位を献上した投票者たちである。
だってこの程度の作品で1位を獲らせていたら、今後20年ずっと米澤穂信が1位を獲るに決まっている。
決して今年が不作だったわけではない。白井智之が画期的な方法で多重解決を仕掛けつつ超絶技巧の論理をめぐらせ、井上真偽が凝った設定で人間ドラマとミステリ的カタルシスを両立させ、永井紗耶子が時代小説の枠組みで本格ミステリを完成させたのに、米澤がいつでも作れるこの程度の作品に1位を獲らせていいわけあるだろうか?
同じことはこのミス2位、文春3位の京極夏彦にも言える。投票者諸氏よ。本当に白井智之や井上真偽や永井紗耶子より「可燃物」や「鵼の碑」の方が上だったか?
米澤に関しては、自分になんのしがらみも発言力もないから言ってしまうが、氏を襲った奇禍への同情票がなかったと投票者は本当に言い切れるのか?
念を押すが「可燃物」それ自体は面白い短編集である。だがこれが他の力作を押しのけてあっさり1位を獲りまくったと聞くと、もはや年間ランキングにどこまで価値があるのだろうと考えてしまう。


23.1.19
評価:★★★☆ 7



冬期限定ボンボンショコラ事件
     


~あらすじ~
小鳩くんは小山内さんと下校中に車にはねられる。手術を終え朦朧とする小鳩くんの枕元には、ひき逃げ犯を許さないという小山内さんのメッセージが。
ひき逃げ事件には3年前、中学時代に二人が出会い、そして追った事件といくつもの共通項があり…。
これは高校生活の終わり、小市民の時代の終わりのエピソード。


~感想~
小市民シリーズ完結編。
前作にしてシリーズ番外編「巴里マカロンの謎」は小鳩くんも小山内さんもいつになく推理にキレがなく、読者には自明の真相に気づかない二人にやきもきさせられたが、本作にはこのシリーズに求めるものが全部入りである。
そのうえ二人の出会いやまだ未熟ながらも実に二人らしい中学時代の捜査も描かれ、そして3年間の月日で変わってきた二人の関係も丹念に描かれと、もう捨てるところのない「それだよ読者が求めているモノは!」と興奮気味に叫びたくなる逸品である。
肝心の真相は丹念に描かれた分わりと気づきやすく、中盤にはもう仕掛けや構図はほぼほぼ見破れてしまったが、それで評価を下げるわけはないし、そんなことよりも読みどころははるかに多い。ラストシーンに至ってはあまり使わない「エモい」という言葉を進呈したいほど。さすがにもう覚えてない15年前のセリフも解説の松浦正人がきちんと拾ってくれていて助かった。
シリーズを追ってきた人は当然読むだろうが、こんな素晴らしい完結編が待っているのだから、夏アニメから入る未来の読者にもぜひシリーズをはなから読んで欲しいと願うばかりである。

ここからは無為の愚痴だが、「可燃物」程度で三冠取りかけられるともう今年のこのミスは「ボンボンショコラ事件」一択である。
安定して80点以上を叩き出しコンスタントに年に数作書け投票しとけば安牌な国民的作家がいたらもう年間ランキングは終わり。宮部みゆきの頃は「もう今さらランキングに宮部みゆきはいいでしょ。でも模倣犯を出されたら1位」という気概を持つ投票者たちだったが今は安牌しか切らない。
「可燃物」で20年楽しんできたこのミスは死んだ。文春はとっくに死んでる。本ミスは首の皮一枚つながってる。早ミスはそもそも生まれてすらいない。


24.5.3
評価:★★★★ 8



未作成
       


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