連城 三紀彦


戻り川心中
 


~収録作品~
藤の香
桔梗の宿
桐の棺
白蓮の寺
戻り川心中


~感想~
『戻り川心中』は傑作である。とは方々で聞いていたが、それは一片の誇張も交えない真実であった。
とにかく美文である。作家志望としてはヨダレが出るような比喩や描写の巧さ。あまりに美文すぎて時々なにを描いているのか解らないこともあるが、とにかくすごい。
そしてなによりミステリとしても超一流なのが本書の特色である。全5編にわたり、真相やトリックが明かされたとき、口をあんぐりと開けて呆然としたくなる瞬間が必ず訪れるだろう。

『藤の香』少ない登場人物。限定された舞台。トリックもプロットも目新しいことができなそうな状況で、しかし意外な真相を放ってくれる。反転をつづける物語に圧倒されること請け合い。

『桔梗の宿』真相にあ然。2006年の今ではこの種のトリックもあるにはあるが、本書の発表は1981年。前例が全くない。

『桐の柩』これも幻想が現実へと姿を変えるような、あまりにも明白な動機に唸る。

『白蓮の寺』幼少時のおぼろげな記憶が思いもかけない方向へ飛んでしまう。ちょっと「記憶多っ!」とも思うが、全ての記憶が指し示すたった一つの真相には愕然とする。

『戻り川心中』表題作にしてダントツの大技。あまりにすごすぎて若干「引いてしまった」のも事実。日本推理作家協会賞の短編部門を受賞。この頃はこの賞もちゃんとしてたんだなぁ。

以上、トリックにだけ言及してみたが、氏の真骨頂は物語を描く才にある。
「花」と「恋愛」をテーマに、縦横無尽の筆致で描かれた世界は、思い返したとき映像として脳裏に再生される。「抒情的な」とか、「瀟洒な」とか、「清冽たる」とか、「馥郁たる」という普段使わないような表現のよく似合う作品である。
ミステリを純文学よりも下に見る輩も多いが、ぜひこれを読んでもらいたい。こういう傑作にめぐり会うと僕のようなミステリ狂は「純文学なんてオチもトリックも真相もない泡坂妻夫や京極夏彦じゃないか」と言いたくなる。
これからは泡坂・京極に加えて連城の名も用いていくこととしたい。
僕が読んだのは1981年発行の刊だが、先ごろ光文社文庫でも再刊されたので、本好きは迷わず手にとって欲しい。


06.4.5
評価:★★★★★ 10



変調二人羽織
   


~あらすじ~
鶴が東京を飛んだ夜、声を失った噺家は引退公演で二人羽織のまま刺された。だが衆人環視のなか誰も彼に近づけたはずはなく……変調二人羽織
箸にも棒にもかからない短編を売りつけに来る名前も知らない男。今度の作品は画期的な密室トリックだという……ある東京の扉
明治、亭主に呼び戻される女。昭和、アメリカから帰国した男。車夫と運転手は、彼女と彼が拳銃を隠し持っていることに気づき……六花の印
「きのうの晩、あなた、わたしを殺そうとしなかった?」妻はそう言うが夫に心当たりはない……メビウスの環
夫婦が住む山荘を訪れた悪魔のような女。静かな暮らしを取り戻すため殺人を決意するが……依子の日記


~感想~
歴史的傑作「戻り川心中」で衝撃のデビューを飾った作者だが、もとは雑誌「幻影城」に投じた「変調二人羽織」で新人賞を射止めたのがデビューのきっかけ。立て続けに「ある東京の扉」、「六花の印」と発表していき、つまり本書は連城三紀彦の実質的な処女短編集である。
もう冒頭の「変調二人羽織」からして我々がよく知る連城三紀彦そのもの。格調高すぎてたまに何言ってるのか理解できない文体、ただの一言で真逆に反転する構図、きわめて魅力的な謎と予想だにしないどんでん返しと、処女作から混じりっけなしの連城三紀彦である。
しかも本書は亡父の「ミステリはどれを読んでも犯人がすぐわかってしまうので退屈だ」というぼやきへの回答として、犯人が容易にわからないことを重点に置き書かれているため、真相はどれもこれも明かされてみるまで予測不可能。こんなことを言えるほど作品を読んでいないが、ここまで連城がミステリを念頭に描いたものは珍しいのではなかろうか。

どれもこれも傑作なのだが一編挙げると「六花の印」が超傑作。文庫版ではページをまたぐといきなり時代が変わっていたりとはじめは面食らうが、終わってみればとんでもない趣向を凝らしとんでもない伏線を張ってとんでもない結末を迎え、目を剥くこと請け合い。まったく連城は傑作短編をいくつ書けば気が済むのだ。


15.4.11
評価:★★★★ 8



暗色コメディ
   


~あらすじ~
もう一人の自分を目撃してしまった主婦。自分をひき殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に一週間前に死んだと告げられた葬儀屋。知らぬ間に妻が別人にすり替わっていた外科医。
4つの狂気が織りなす幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知。


~感想~
なにぶん「狂気」が前提のため、なんでもありな空気が漂い、物語が進むごとにミステリとして成立するのかと危ぶみたくなるような、異様な展開が待ち受けている。
しかしそこは連城三紀彦、到底ありえないような異常が、トランプを裏返していくようにぱたぱたと現実へと転じていく。
その一方で、あまりに異様で幻想的な謎の数々が、無味乾燥な現実へと落ちてしまうのも事実。たとえるなら美しい情景に目を凝らしたら、ただの無機質なドットで構成されていたような。
本来なら細緻にドットを組み合わせ、絵画を作り上げた技巧を褒めるべきだろうが、難癖をつけるようだがあまりに謎の方が美しすぎたのが玉に瑕。なんとも惜しい作品である。


08.2.15
評価:★★★ 6



密やかな喪服
       


未作成



夜よ鼠たちのために
     


~あらすじと収録作品~
ホテルで発見された"妻"の死体。だが"妻"はつい先刻、この家で私が殺したはずだった『二つの顔』。
謎めいた誘拐事件の真相を引退した刑事が先輩刑事に手記で語りかける『過去からの声』。
車椅子の少女が首を絞められた。だがその部屋には母も父も誰も入ることができなかった『化石の鍵』。
妻を尾行してくれというありきたりの依頼。しかし尾行に気づいた妻は、探偵に逆に意外な依頼をする『奇妙な依頼』。
妻の復讐のため私は彼らを殺さなければならない。ありふれたように見える復讐者の動機はかつてないものだった『夜よ鼠たちのために』。
妻と愛人の間を交互に行き交う男。彼らの間には複雑な因縁が絡まり合っていて…『二重生活』


~感想~
毎回同じことを書いているがそれでもやっぱり連城三紀彦はすごい!
たったこれだけの枚数の中に仕組まれた精緻なトリックと罠。特に驚いたのは『過去からの声』で、のちに『人間動物園』と『造花の蜜』という誘拐ミステリの傑作長編を二つも放っている氏が、それに先駆けてこんなとんでもない誘拐トリックを、しかも短編でものしていたとは。
その他の5編もいずれ劣らぬ傑作ぞろい。トリック、動機、ミスディレクション、どこかに必ず見たこともない顛倒した発想が潜んでいる。本格ファンはこれを見逃す手はない。


11.10.28
評価:★★★★☆ 9



運命の八分休符
       


未作成



宵待草夜情
   


~収録作品~
能師の妻
野辺の露
宵待草夜情
花虐の賦
未完の盛装


~感想~
駄作の後は連城で口直しというのが恒例になりつつあるが、恋愛小説でありながらどうしようもなく本格ミステリでもある作風を誇る氏らしい短編集。
どの作品も動機やトリックや真相の異常さが恋愛小説にあるまじきものなのに、それでもなお恋愛小説以外の何物でもなく、しかも異常な動機やトリックや真相はやはり本格ミステリならではの物であるという、連城作品でしか味わえない読書体験を約束してくれる。
短い分量ながらその「濃さ」はまるで長編を読んだよう。ダメミスの後にはやっぱり連城三紀彦です。


08.4.21
評価:★★★☆ 7



敗北への凱旋
   


未作成



少女
     


~収録作品とあらすじ~
官能小説家の連載作品は、まるで編集者の昨晩の情事をなぞるように描かれて……熱い闇
援交した女子中学生の財布から抜き取った2万円は、強盗が奪った札とナンバーが一致していた……少女
数ヶ月の記憶を失った私が出会った彼女は、記憶の中の出来事と同じ仕草を繰り返す……ひと夏の肌
「私の代わりに妻を満足させてください」冗談のような依頼は真実だった……盗まれた情事
二組の夫婦のスワッピングを撮影するうちに、フランス人妻に魅せられた私は夫に殺意を抱く……金色の髪


~感想~
一言で表すならば官能小説である。
全体のほぼ半分が濡れ場で埋められ、ジャンルも目隠しSMプレイ、女子中学生との援交、障子ならぬ蚊帳を貫く怒張、変型テレホンセックス、金髪フランス人妻とのスワッピングと多岐にわたる。
本格ミステリ的な仕掛けも散見されるが、そんなことより連城節が冴え渡るとにかくエロい描写が売りで、一編挙げるならやはり「盗まれた情事」が最高で、話の筋をネタバレしてしまうが「イ●ポの私の代わりに妻を満足させてください」という古式ゆかしい設定を皮切りに、しかも情事を夫が電話越しに聞いていて、その理由が「夫のイ●ポ治療のため」というこれまた古式ゆかしき素晴らしさ、その後は男女ともにフィニッシュの声を受話器に吹き込むという想像するだに吹くしかない「エロは馬鹿」という格言を思い出すチープさ(褒め言葉)で、ラストに待ち受けるミステリ的などんでん返しなんてもはやどうでもよくなる。
「連城三紀彦のエロ短編集(※ミステリ味もあるよ)」というジャンルから想像しうるものをド真ん中直球で放ってくれた一冊で、これには愚息も満足。


15.7.25
評価:★★★ 6



恋文
   


~あらすじ~
余命いくばくもない昔の恋人に寄り添うため、突然姿を消した夫。妻は素性を隠して二人のもとに赴き…『恋文』。
何かにつけて彼女を悪し様に言う義母は、戦中に友人が恋焦がれていた一人の軍人の話をする…『紅き唇』。
旅行から帰った母は、私よりも若い男をつれていた。男は母と婚約したと言い、父親として振る舞い始め…『十三年目の子守唄』。
どんなことでも「俺なら、いいよ」と受け流し、髪結いの亭主を気取る夫。結婚記念日、妻は夫を裏切り男のもとへ行こうとし…『ピエロ』。
死んだ姪に生き写しのその娘は「母さんのこと愛してたんでしょう」と私に言う。彼女はお腹の子の父親が私だと、全く身に覚えのない事を言い…『私の叔父さん』


~感想~
表題作で直木賞を受賞した傑作短編集。
直木賞といえば功労賞の意味合いが強く、何度も候補に上がった末に「そろそろ獲らせてやってもいいんじゃないか」という気運が高まると、思い出したように与えられる賞のため、往々にしてその作者の代表作の何作か後に出されたぱっとしない作品に与えられがちである。
しかしそこは代表作を挙げろといわれれば十人が十人、別の作品を挙げるだろう連城三紀彦。『恋文』は本来の意味での直木賞にふさわしい、傑作短編集である。
まごうかたなき恋愛小説でありながら、顛倒した論理や、思いも寄らないような真相を裏に潜ませ、ミステリとしても十二分に楽しむことができる、ミステリバカから一般的な読者まで、誰しも満足させる傑作揃い。
つまりは、いつもの連城作品である。いつもの連城作品のそのすごさを知っている方は、ぜひ手に取っていただきたい。今さらすぎる話だが。


11.12.12
評価:★★★★ 8



私という名の変奏曲
       
     


~あらすじ~
世界的ファッションモデルとして活躍する美織レイ子が自宅マンションで死体となって発見された。
しかし彼女を殺す動機を持つ七人の男女たちはそれぞれが「美織レイ子を殺したのは自分だ」と信じていた……。


~感想~
複雑なストーリー、誰の視点か明かされない独白で語られていく構成と、作者が連城三紀彦でなければ物語が錯綜してしまい、筋を追うことすら困難になってしまうだろうが、そこはミステリ界屈指の筆力を誇る作者。鮮やかな手並みで難解な物語を難解に見せず、「七人に殺された女」という幻想的な謎を、現実的に解体し、なおかつ現実的でありながら興ざめさせない真相を描きだしてくれる。
そしてどこまでも本格ミステリであり、しかもどこまでも恋愛小説でもあるという破格の小説で、「純文学じゃなければ小説じゃない」という層も文句を言えないことだろう。
やはり連城三紀彦がミステリを書いていることは、ミステリ界とミステリ読みにとって大きな誇りである。


09.10.23
評価:★★★ 6



瓦斯灯
       


未作成



夕萩心中
   


~収録作品~
花緋文字
夕萩心中
菊の塵
白い密告
四つ葉のクローバー
鳥は足音もなく


~感想~
文学史に残る傑作「花葬シリーズ」の3編+ユーモアミステリ「陽だまり課事件簿」3編を収録。
悲恋譚がとんでもない反転を見せる『花緋文字』、壮大な歴史ミステリ『夕萩心中』、望外の展開『菊の塵』と期待通りの傑作ぞろい。ユーモアミステリもさすがの堅実なトリック、泡坂妻夫ばりの軽妙さと、作家としての懐の深さを見せつけてくれる。
ダメミスの口直しにはうってつけの、一言一句見逃せないすばらしい文章を堪能させていただきました。


07.7.1
評価:★★★★ 8



日曜日と九つの短編
     


~あらすじ~
死期を迎えた母から息子への手紙。なぜ婚前はあれだけ褒めて結婚を勧めていた嫁を、母はあんなにも厳しくいびるようになったのか。そこにはある理由が記されていた…母の手紙
他9編収録。


~感想~
冒頭4編を読み、今回はミステリ味のない恋愛小説かと思っていたところに不意打ちで叩き込まれる「母の手紙」の破壊力たるや。
日常の謎の中にとんでもない発想をぶち込む連城短編の中でも屈指の、いやそれどころかオールタイムベスト級の代物で、読者は度肝を抜かれるとともに「連城なんつーことを考えるんだよ!」と頭を抱えることだろう。
調べたところアンソロジー「連城三紀彦レジェンド」で推薦した伊坂幸太郎をはじめ連城のベスト短編に挙げる人がいるのはもちろんのこと、いわゆる名刺代わりの10冊やベストテンにすら入れられているのもちらほら見掛けた。
「人が変わったように嫁いびりをする母親」というありきたりの設定からこんな想像だにしない真相を導き出す連城は本当に恐ろしい。
なお文春文庫版の解説はノータイムで真相を明かしているので要注意のこと。
「母の手紙」の話しかしなかったが、この一編のためだけに読んでも全く損はないのでぜひ探して欲しい。


23.7.11
評価:★★★☆ 7



残紅
       


未作成



青き犠牲
     


~あらすじ~
彫刻家の杉原完三が死に、容疑は息子の鉄男にかけられる。鉄男は図書室で繰り返し読んでいた「オイディプス王の悲劇」のように、父を殺し母を汚す大罪を犯したのか?


~感想~
読みかけの笠井潔「オイディプス症候群」と同テーマのため、分厚い「オイディプス症候群」からの逃避がてら読んだが、連城長編にしては短い内容で一気に読めた。
内容としては正直言ってがっかりの、しかし本題ではないのでどうでもいいと言えばどうでもいい密室や真相よりも、ある一つのトリックが強烈過ぎて他の全てが目に入らなくなる。
ネタバレを避けてほのめかすと、驚異的な筆力で●●(変態ワード)を●●(別の変態ワード)に見せかけるという、匠の技だけど連城か白井智之しかしない発想で爆笑した。確かにそう読めるし超すごいけどこんなの他に誰が考えつくんだよwww
連城にしてはストレートな性描写や強烈なトリックが人を選ぶが、きっと忘れられない読書体験であった。


23.6.29
評価:★★★ 6



もうひとつの恋文
     


~収録作品とあらすじ~
酒場で3度会っただけの女が、冗談を真に受け手枕一つ持って同棲をしにやってきた……手枕さげて
盛り場に入り浸るようになった中学生の息子は、兎を主人公にした作文で父の浮気を告発する……俺ンちの兎クン
「紙で出来ていたら困る物は?」ヒモ同然の売れない作詞家に私はなぜか惹きつけられる……紙の灰皿
ぶっきらぼうな若い友人が、私の妻を好きだと不意に言い出して……もうひとつの恋文
3ヶ月後の海外赴任を前に転がり込んできた別れた亭主との同居を、今の亭主は平然と受け入れた……タンデム・シート


~感想~
直木賞を受賞した「恋文」を彷彿とさせる大胆なタイトルに恥じない好短編集。
一言で言えば「連城版だめんず・うぉ~か~」で、表題作を除いて主人公は揃いも揃ってダメ男。特に「紙の灰皿」にいたってはこれはダメ男というよりクズ男なのではという圧倒的クズっぷりで、それに比べれば幾分かはおとなしいものの、他の作品の連中も似たり寄ったり。
「手枕さげて」は男ではなく女がダメで、冷静に考えるとクッソ怖いヤンデレぶり、「俺ンちの兎クン」の息子は本格ミステリなら間違いなく殺人に手を染めている狂気を秘めと、精神の均衡を崩す境界線ギリギリに立っているか、とうに彼岸に渡っているキャラばかりなのだが、どれも終わってみれば「死ぬほど良い話」になっているのが連城作品の恐ろしいところ。
ミステリとして見ても「もうひとつの恋文」と「タンデム・シート」は見事などんでん返しが決まっており、ただただ死ぬほどエロいだけ(※ミステリ味もあるよ)の「少女」も書ければ、ただただ死ぬほど良い話(※ミステリ味もあるよ)の本作も書ける、連城三紀彦はやっぱりすごい!


15.7.29
評価:★★★ 6



離婚しない女
     


~あらすじ~
水産会社社長のお飾りにされた美しい妻と、その浮気相手の男。二人は共謀して社長の山川を殺す。
だが男は別の女とも心を通わせて、両者の間を行き来しており…。


~感想~
短めの長編「離婚しない女」と短編2作を収録。
一読まず、やることなすこと意味不明でいったい何が目的なのかさっぱりわからない二面性を持つ男に戸惑うが、そんなことはどうでもよくなるほど強烈な結末に脳を焼かれる。
全く予想だにしない全てを台無しにする結末に読者は驚くとともに呆れ果てるだろうし、感想はやはり「いったい何が目的なのかさっぱりわからない」で一致するのだからすさまじい。
いやわかるよ? わかるけどだからってそんなことする??

残りの短編2作も全く違った色合いで、特筆すべきは「植民地の女」の方。
絶対そんなわけがないんだけどこれまた強烈な結末に仰天させられる。連城は本当に変なこと考えつくよな…。

なお文庫版解説はミステリ関係者ではないだけあり完膚なきまでにネタバレされているので要注意である。


23.7.4
評価:★★★ 6



花堕ちる
   


未作成



恋愛小説館
       


未作成



蛍草
       


未作成



一夜の櫛
     


~感想~
10~20ページほどの掌編・短編を集めた作品集。
連城短編名物の浮気のオンパレードで、ある時は軽めのどんでん返しで、またある時は全てを語らず余韻を残しと、様々な手管で短いながらに強い印象を残す佳編揃い。連城ファンなら気軽に読めて確実に楽しめるだろう。
一編挙げるなら、連城だから許される絶対そんなわけない「ヴェール」が強烈だった。


23.9.2
評価:★★★ 6



夢ごころ
     


~あらすじと感想~
もともとは「新・雨月物語」として発表されたものを改題した短編集で、各編のタイトルも上田秋成の「雨月物語」にちなみ、内容もオマージュに富んでいるらしい。
雨や月を印象的なモチーフに用い、現実から乖離した幻想小説が多いが、この作者らしいどんでん返しも仕組まれている。
しかし連城もどんでん返しも好物なのだが(あくまで個人的には)幻想小説の範疇でそれをやられると「お、おう……」となってしまい心からは楽しめない。
普段の恋愛物やミステリよりも過剰な仕掛けやどんでん返しも多いのだが、なんでもありのジャンルでは縛りが無さすぎて若干引いてしまうといったところか。
だが幻想小説や幻想ミステリ好きなら文句なしに楽しめることは間違いなく、仕掛けに引いてしまっても、深く印象に残る作品群である。


15.8.26
評価:★★☆ 5



黄昏のベルリン
   


~あらすじ~
リオデジャネイロ、ニューヨーク、東京、パリ、ベルリンと、世界の大都市を結んで展開する国際的謀略事件。
ハーフの講師・青木優二は自分の意外な出生の秘密を知り……。


~感想~
場面が章を区切らずにダッシュだけで次々と切り替わるが、まったく読者を混乱させない手腕はさすが。
話が進むほどにミステリというより謀略小説へと様変わりしていき、最後はトリックなどどうでもいいようなロマン小説に着地するのが不満も。
だがそこまでの過程だけでも十分に良作と呼べるだろう。
連城三紀彦の謀略小説と聞いて想像するとおりの作品。期待は裏切らないが、上回りもしない。


08.9.23
評価:★★★☆ 7



あじさい前線
       


未作成



飾り火
       


未作成



たそがれ色の微笑
     


~感想~
良作揃いの短編集。
冒頭の「落葉遊び」は現代コンプラからすればやべえ教師をやべえ生徒がからかう応酬から、なんかとてつもなく良い話っぽく落とす連城マジックが光る。
続く表題作が白眉で、47歳の女弁護士がホストに入れ上げるという破滅しか見えない物語から鮮烈な結末へ至る。
「白蘭」はいくら昭和でも絶対笑えないネタを繰り広げる漫才コンビの物語だが、これもそんなわけない逆転劇とタイトル回収の妙味で強いインパクトを残すだろう。
「水色の鳥」も実に面白く、離婚した両親の再婚相手の間を揺れ動く中学生を描き、普段は好みではない結末もこればかりは許せた。
「風の矢」はまさかの狐が主人公の童話仕立てで、連城がこの手の作品を書いたのを初めて見るのでそれだけでも驚かされる。
連城初心者よりも何作も読んだ歴戦のファンにお勧めしたい、異色の一冊だった。


23.9.9
評価:★★★☆ 7



萩の雨
       


未作成



一瞬の虹
       


未作成



どこまでも殺されて
     


~あらすじ~
「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」
七度も殺され、今まさに八度めに殺されようとしているという謎の手記。
そして高校教師・横田のもとには、ある生徒から「僕は殺されようとしています。助けて下さい」というメッセージが届く。
生徒たちの協力を得て、横田は殺人の阻止と謎の解明に挑むが……。


~感想~
これはメタ系の仕掛けしかないだろうと思っていると、反転する構図に意表を突かれる。
それも意図しない形の反転で、こういうやり方もあったのかとしばし呆然。
「綺麗」「鮮やか」というわけではないが、その豪快なひっくり返しには度肝を抜かれるだろう。
最後も限定された条件下ながら、意外な結末でまとめ上げてくれる。
揺れる心理を暗く打ち沈んだ筆致で描き通した、梅雨にうってつけの作品でした。


06.7.19
評価:★★★ 6



夜のない窓
     


未作成



褐色の祭り
       


未作成



ため息の時間
   


未作成



新・恋愛小説館
       


未作成



美の神たちの叛乱
     


未作成



愛情の限界
     


未作成



落日の門
     


未作成



明日という過去に
   


~あらすじ~
学生時代から20年に渡り親しくしてきた弓絵と綾子。
弓絵の夫の死をきっかけに二人の間の秘密が明らかとなり、書簡を交わしていく。


~感想~
「嘘です」「嘘と言ったのは嘘です」「嘘と言ったのは嘘と言ったのは嘘です」は連城三紀彦おなじみの展開だが、本作はその過去最高というか過去最悪の部類で延々と嘘の応酬が繰り広げられる。
もうなんでもありの様相でたぶん会って話すか殴り合えば5分で全貌がわかる物語を、異常なほど性格の悪い嘘つき二人が本心を隠して相手を騙しとにかくマウントを取ろうとくんずほぐれつするせいで一向に収拾がつかない。ついには「これから嘘を言います」と来てさすがに笑った。
終盤にはもう「あれは嘘だ」と言われるたびに笑いが込み上げ、いいから本当のことを書けこのカスどもが!と罵りたくなること請け合い。いちおうの真相はあるもののもはやどうでもよくなってしまった。
また文庫版解説では「連城三紀彦をミステリー作家と形容するむきもあるようだが、それはこの作者に対して失礼ではあるまいか。単なる犯人探しや謎解きに終始する通俗ミステリーに対し、連城三紀彦の(以下略)」なる今となっては古式ゆかしい90年代ならではのミステリ全般への偏見と強烈なディスまでちょうだいしもう悪い意味でお腹いっぱいである。
相当の連城ファンでも読まなくていいんじゃないかな……。


24.6.13
評価:★☆ 3



顔のない肖像画
     


~収録作品とあらすじ~
強姦で医師を訴える患者と冤罪だと主張する医師。カーテンの閉ざされた病室で何があったのか?……瀆された目
地味を装った美しい患者に私は治療を施す……美しい針
運転手は私を連続タクシー強盗だと誤解している。間の悪いことに私の衣服には血が付いていて……路上の闇
誘拐されていると通報してきた少年は、9年前に誘拐殺人で命を落としていた……ぼくを見つけて
不倫相手を殺した直後、その妻から死体を発見したと連絡が。妻の目を欺けるのか……夜のもうひとつの顔
上司の妻は同僚の中に夫の浮気相手がいると語る。内偵を進めるが全員が疑わしく……孤独な関係
悲運の画家の遺作を金に糸目をつけず競り落としてくれと頼む妻。だが彼女には財産は無いはずで……顔のない肖像画


~感想~
恋愛小説でありながらミステリとしても一流という連城作品の中でも、本書は恋愛にこだわらずミステリとしての色濃い作品が揃った。
証言だけで話を進めたった32ページで目まぐるしい反転を見せる「瀆された目」、誘拐ミステリの傑作をいくつもものしてきた作者がまだまだ見せる誘拐の手練手管「ぼくを見つけて」、倒叙形式ながらそれだけに終わらない思わぬ展開を見せる「夜のもうひとつの顔」、これも連城名物の一人語りで激しいどんでん返しを繰り返す「孤独な関係」と秀作があるわあるわ。
しかしなんといっても白眉は表題作で、悲運の画家と怪しい妻、いくつもの不審な点を残しながら進むオークション、そして明かされる絶対に予測不可能な真相と、余裕で長編に出来る物語を惜しげもなく短編に仕上げた傑作である。
本当に連城はいくつ代表作の候補を書けば気が済むのだろうか。

なお文庫版の解説はなんら予告もなしに「戻り川心中」や「恋文」のネタバレをかます糞解説なので迷わず破り捨てることをおすすめしたい。


15.8.24
評価:★★★★ 8



背中合わせ
     


~感想~
文庫版でタイトル含めわずか12ページの掌編だけを21話集めた作品集。
尺が短いにも関わらず必ずどんでん返しを仕込んだため、逆に疑って掛かってしまいオチが見え見えで、はじめのうちはいくら連城でも無理ゲーなのではと思うが、読み進めていくうちに気にならなくなり、予定調和のような物語を素直に楽しめる。
何編か好みを挙げると「鞄の中身」はもうサイコパスとしか呼べない某氏の言動がいちいち恐ろしく、「まわり道」はそこしかないという落とし所に綺麗に着地、ひとつきりのどんでん返しが見事に決まる「ねずみ花火」に、あやふやな結末がかえって素晴らしい「ガラスの小さな輝き」と、終わってみれば佳作があるわあるわ。

それにしてもネタバレ覚悟で掌編にも何がしかの仕掛けを施さずにはおれない、綾辻行人の言葉を借りれば連城の「ミステリ作家の業」を感じずにはいられない一冊で、こんなものを発表していながらミステリを書かなくなったとか、恋愛小説家になったとか陰口を叩かれていた氏の心境はいかばかりか、と思いたくなる。

なおまったくの余談だが文庫版の解説はもうまじりっけなし100%のいわゆる「女の解説」でこれにはさすがに苦笑いした。


15.10.6
評価:★★★ 6



牡牛の柔らかな肉
     


~あらすじ~
かつて一人の男を死に追いやった後悔から出家し、小さな庵に住む美しき尼・香順。
やがて庵は全国からワケありの男たちが漂う駆け込み寺へとなる。
謎めいた色香を漂わせる香順は様々な策をめぐらせ、庵を発展させ、男たちを惑わせていく。


~感想~
前半は「エロい尼さんが周囲で起こる日常の謎を解く」というラノベにすれば天下獲れそうな内容で、名探偵ばりの洞察力と推理で、個性豊かなワケあり男たちの秘密を暴き、過剰なまでにどんでん返しを積み重ねていく様は実に小気味よい。
中盤からは「エロい尼さんの立身出世物語」になり、犯罪すれすれか明白に詐欺な策謀で周囲を操っていくコンゲーム的な内容で、あまりに尼さんの手の内で全てが転がされすぎるきらいはあるが、これもどんでん返しを効果的に使い、やはり面白い。
だが終盤の「エロい尼さんの過去を暴く」パートで急に観念的な話が増え、意外な過去こそ解かれるものの最終的には立身出世物語も、決意を秘めた男たちの動向も全てが置き去りなまま幕を閉じてしまい、実に物足りない。
連城以外では誰が書いても失敗するだろう「それは嘘」→「それは嘘だと言ったが本当」→「それは本当だと言ったが実は嘘(嘘とは言ってない)」といった具合に虚実が次々と入れ替わるやりすぎなくらいのどんでん返しの末に浮かび上がる、香順という謎の女の半生こそが物語の主眼であり、あくまで「半生」であるため結末が描かれないのは仕方ないことかもしれないが、尻切れとんぼに終わるのは不満しか残らなかった。
とはいえ中盤までは文句無しに面白く、コピペして保存したくなるような美文が所狭しとページを埋め尽くすので、結末に納得がいかずとも連城ファンなら楽しめることだろう。


15.9.5
評価:★★★ 6



終章からの女
     


未作成



花塵
     


未作成



紫の傷
   


未作成



前夜祭
     


~あらすじと感想~
恋愛小説かつ本格ミステリという驚くべき技巧を見せる作者が、浮気をテーマにミステリ味を濃い目に仕上げた短編集。
各編の質の高さや当たり外れの少なさはいつものことなので置いとくとして、特筆したいのは「それぞれの女が……」と「薄紅の色」の二編。
あまり詳しく書くと興を削ぐので出来ればこんな駄感想はこれ以上読まない方がいいが、念を押してからざっと紹介すると、「それぞれの女が……」は他作品でもたまに見られる「――」や「……」だけで場面転換する目まぐるしい展開から、不倫相手の急死を知らされた愛人と、夫の浮気に悩む妻、彼女らの話がとんでもない連関を見せる驚愕の仕掛けで、二度読み必至。

「薄紅の色」は上司の娘と結婚間近の男が、別の女に心惹かれてしまい、面目を潰された父親と衝突するも、その父親が急死した場面から話が始まり、予測不可能な結末までわずか23ページで一息に駆け抜けるという恐るべき一編。

その他にも「普通の女」は突然妻から離婚を切り出された男が、彼女の元カレの画家にわたりを付けるも、その背後からもはやホラーかファンタジーかというあまりに現実離れしたおぞましい真相が襲いかかり、表題作の「前夜祭」は他の短編と比べ淡々と話は進むものの、前触れもなく失踪した男について妻子や愛人、同僚や妻の浮気相手が振り返り、肝心の男は何一つ語らないものの彼の存在が確かに浮かび上がり深く印象に残る……と重ねて言うが捨てる所の全くない良作揃い。

殺人の一つも起こらず、ただ男女が恋し恋されるだけで謎と意外な真相が描かれてしまう、連城三紀彦にしか成し得ない驚異の作品世界である。


15.9.12
評価:★★★★ 8




     


未作成



誰かヒロイン
   


未作成



隠れ菊
 


未作成



虹の八番目の色
   


未作成



美女
   


~収録作品~
夜光の唇
喜劇女優
夜の肌
他人たち
夜の右側
砂遊び
夜の二乗
美女


~感想~
純文学でありながらミステリとしても一流の珠玉短編集。
泡坂妻夫と同じく、現実に根を張りながらも、ふと冷静に考えてみると「ありえねえ」ことを平然と描いている。一歩間違えば単なる虚構や、ただの馬鹿話になるところを、並はずれた平衡感覚で現実世界の情景に留めているのだ。
収録作では『喜劇女優』や『他人たち』が顕著だが、直前まで事実だと思っていた事柄が、一言で全て否定され、全く別の側面を見せるという手法を、好んで用いる。これも力のない作家がやれば、ただのしっちゃかめっちゃかな行き当たりばったりの物語になるところを、豪腕でむりやりにでも納得させてしまう。そのあたりは島田荘司や京極夏彦、泡坂妻夫と同じ作風なのかも知れない。
現実世界に足を着けながら、不思議な酩酊感をもたらしてくれる、現実的に幻想的な世界。やはりただものではない。


06.8.13
評価:★★★★ 8

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