※前作「medium」のネタバレもしているのでくれぐれもご注意ください

前作「medium」は霊媒で一足飛びにたどり着いた真相に、論理的な推理の筋道を付けて現実に落とし込む、という表の趣向と、実は霊媒でもなんでもない純粋な推理を霊媒に見せかけていた、という裏の趣向が合わさった傑作だった。
ところが「invert」では霊媒は犯人の動揺を誘う手段の一つに過ぎず、城塚翡翠は普通の推理をするだけで、翡翠のあざとい演技に騙される犯人の視点は面白いものの、「medium」のような際立った長所は失われてしまった。
古畑任三郎を大胆にパク…リスペクトした、解決前の暗転や読者への挑戦、助手役の何気ない一言からの気付きなどで特徴付けてはいたものの、あの「medium」の続編としては物足りなかった。

2話目が終わるまでは。

3話目で作者は「medium」の続編でしかできないことをやってのけた。
思えば「medium」も個々の短編を取り出せば小粒なものだったが、それは本当の仕掛けを隠すための目くらましに過ぎなかった。
1〜2話目を読んで「ふうん。読者への挑戦もあって丁寧で良くできてるけど、これ別に続編じゃなくてもよかったんじゃない?」と思った読者は叩きのめされる。すでに作者の手玉に取られている。
一から十まで全てが罠で、城塚翡翠は苦戦などしていない。話数が進むたびに犯人は強くなってなどいない。
まだシリーズ二作目の初の短編集で、読者も城塚翡翠を甘く見ているからこそ仕掛けられる、「medium」の衝撃にも劣らない強烈なトリックだった。

これは読了後に談義した友人(とれいんさん)の受け売りだが、3話目の途中で奇術の手法として語られる「同じことが繰り返され、なにが起こるかは自明となり、客席にいる者たちは思うことでしょう。タネがばれているのに、どう騙すつもりなのか? ですが、それこそが盲点なのです。知っているからこそ、繰り返しだからこそ、わたしたちは魔法の只中に迷い込んでいる」を大胆にもまさに作中でやってのけたのだ。
またこれも受け売りだが、古畑任三郎を真似た趣向も、映像作品の古畑では絶対にできない、古畑と今泉の入れ替わりという大胆なトリックを覆い隠すための罠だったと見るべきだろう。
「medium」にも度肝を抜かれたが、本作でもここまで綺麗に騙され驚かされるとは思いもしなかった。

1つだけツッコミさせてもらうと、1話目の冒頭でサーバーダウンを聞かされた狛木が「こんなときに…」とつぶやいたのはちょっとどうかと思う。
鯖落ちは狛木がアリバイ偽装のために自ら仕組んだものであり、予測していたものだった。このセリフは「狛木も予期せぬトラブルだった」と読者に印象づけ、アリバイを補強するために出されたもので、現実的には絶対に言うわけがないセリフである。非常に不自然だったと思う。

そしてここからは完全に余談だが、感想を少しあさったところ、作者のデビュー作の探偵・酉乃初らしきマジシャンが登場していることに言及しているものは少なかった。自分もデビュー作しか読んでいない(※そもそもシリーズは2作品しか無いのだが)立場ながら、まだ「medium」しか広く読まれていないのだなと感じた次第である。
そしてさらに妄想だが、本作で酉乃初(推定)は20代半ばに成長している。そして城塚翡翠も同年代と記されている。
つまり二人は同年齢、さらに進めれば同級生の可能性がある。すると酉乃初シリーズに高校時代の城塚翡翠が登場する可能性もあるのではないか?
さらにさらに…と妄想を進めたくなるが、万が一これが作者の目にとまり、なんらかの影響を与えてはシャレにならないので(この発想自体が妄想であることは重々承知している)ここでは記さないこととする。
でももし、そんな続編があるならば絶対に読みたいと思います!!!

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